キーポン・ボーイフッド

 俺は体育でバレーボールした時ネットを張ったこともなけりゃ、そのための鉄の棒を運んだこともない、かと言ってネットの下をヘッドスライディングでくぐったりしていたのかといえばしていなかった。ライン引きを担当したこともなけりゃ、無くなったボールをみんなで探す時もふざけてばかりだし一度なんか友達とその途中で教室帰ってしまった。そのくせ野球のグローブは一番最初にとりにいった。キャッチボールはちゃんとやりたい。いつもそうやって生きてきた。毎日が、ヘイヘイ、パスパス、時々クールだった。
 同じく体育のスポーツテストでは、一回、物凄いズルをして、思いっきり段差に足をかけて立ち幅跳びで物凄い飛んだ。おそらく学校記録だったと思う。あと、学校の外をまわる長距離走はズルして400mも走らないで毎回物陰に隠れた。みんな知ってたけど、みんなチクらなかった。
 『キン肉マン』は第一回超人オリンピックでテリーマンが撃たれたところからおもしろくなくなったと思っている俺は、プロレスに興味が無い。俺はキン肉マンにはもっと牛丼を食っていて欲しかったし、キン肉バスターに魅力を感じないのだ。
 水族館とかに行くと、俺は500円でやれるクジをやってしまう。当たった等に応じて、色んなでかさのシャチのぬいぐるみがもらえる。3等が今までの最高だ。割とでかい、今もベッドに置いてある。動物園に行くと楽しくてしょうがないし、美術館はあんまり行きたくないと思ってる。うちは四人家族だが、上野に行った時、モディリアーニに興味が無かったので俺だけ別行動で上野動物園に行った。確かに絵を見ると、ほぉー、って、ほぉーってなるのはわかるが、俺はそれよりずっと、ゾウのとこで、くせー、って言いたかったのだ。できれば家族で、くせーって言いたかったのだ。シロクマのとこは家族連れでこんでいたが、ちょっと泣きそうになった。
 周りのみんなが不思議なほど大人になっていく。俺はドキドキしてくる。マンガを読む量が増えた。俺はほんとは缶蹴りをかなり本気でやりたいと思っているのに、みんなは飯を食いに行こうと言う。あの頃の本気が、今は冗談になってしまった。革靴に疑問を持たなくなってしまった。プロ野球の帽子をかぶらなくなってしまった。Jリーグチームの靴を履かなくなってしまった。街中でマウンテンバイクに乗らなくなってしまった。手でピストルの形を作らなくなってしまった。みんなは犬を飼いたいと滅多に言わなくなったが、俺は今でも犬飼いたいと思うし、言っている。
 俺はもともとみんなより大人だったと思ってきたが、へらへらしているうちに、いつの間にかみんなが背広を着て、俺の知らない会社のある方角を見ていた。最後にみんなが素面の時に肩を組んだのはいつのことだろう。そう、みんなお酒を飲む。お酒のことを酒と呼び、酒飲みに行こう、と言う。俺は、そのうちの何人かが、大人になっても絶対ビールなんか飲まねえ、と言っていたのを覚えている。まじー、と言っていたのを覚えている。でも、俺はまだ子供だから、大人になったみんなに向かってそんなこと言えない。俺はコーラばっか飲んでる。ファンタの新しい味に飛びついている。
 みんなは昼飯に千円出すようになった。千円出したら大体のことは出来ると思っていたのに、今では昼飯しか食べられなくなってしまった。俺は何食ってもうまいと思うし、味が濃ければ店主に親指を立てる。店を出る時、レジに飴やガムがあれば三つぐらい取っちゃうし、いつまでも楊枝をくわえている。それがかっこいいと思っているのだ。
 そんな俺でも、浅い好き嫌いがなくなった。嫌いだった佃煮も、煮魚も、野菜をあれこれしたやつも、なんでも食べる。そんな時、俺はなんだか泣きたくなる。でも、茶碗蒸しは今でも嫌いだ。
 俺はまだ、あの頃の生き方が一番おもしろいと思っている。ずっとそうしていられる方法を考えている。リーマンになってしまうとしても、俺はずっと、アリの巣に木の棒を差し込むのがおもしろいはずだ。アリに何かかぶせて、翌日見にいけるはずだ。今では、ネットの下をヘッドスライディングしてもよかったと思っている。とにかく俺はいつもいつまでも楽しくやっていたいのだ。そしてキン肉マンはあんまり関係なかった。