腹ぺこライオン

 毎日毎日シマウマとガゼルばっかり食べて栄養が偏りがちなのではないかと思われている我々ですが、そもそも、はじめのうちシマウマなんか気持悪がって誰も食べませんでした。毛の色が、生で見るとかなりパンチがきいているのでした。
 ある晴れた暑い日、我々は腹ぺこでした。余談ですが、「腹ぺこライオン」という絵本でよく使われている言葉は、この時に我々のことを取材していたスロバキア人女性が思わず口にしたのが最初です。彼女は「HAHAHA、腹ぺこライオンでぇーす」と我々を指さして言いましたので、我々は食い殺しました。その時のことは、絵本、「腹ぺこライオンと失礼なスロバキア人女性」に詳しいので、そちらで読んでください。ちなみに、絵本に我々が登場する時、十中八九腹ぺこ状態であるという、ある種差別的ともとれる事実に関しましては、別途、サバンナで生きとし生ける協同組合(ダブル生協)を通じて訴えていきたいと思っています。
 さて、そのスロバキア人女性の腹持ちが不気味なほどよくて一ヶ月ほど生き延びた我々ですが、またすぐに限界がやってきました。朦朧とした意識の中で自分たちのタテガミをむしって食べつくしてしまっていた我々は全員メスみたいになってしまい、これでは子孫が残せないのではないかと思いました。そんな冗談を笑う気力もなくなっていよいよ飢餓感が差し迫ってきた時、百獣の王貞治の異名を持つリーダーのワンさんが言いました。
「みんな、あそこを見てくれ。シマウマがいっぱいいるね」
 ほかのみんなは、ワンさん何を言い出すんだ、と思いました。その時のワンさんは初代AIBOのような動きをしており、正気でないのはすぐにわかりました。
「まさかワンさん、シマウマを食べる気なんじゃないですか」
「ワンさん、それはダメだ。あんな白黒い動物食ったらどうにかなっちゃいますよ」
「それに、現在のAIBOはもっと滑らかな動きをするはずです」
 ワンさんは我々の声など聞こえないらしく、フラフラとシマウマの方に向かっていきました。シマウマもその頃は我々ライオンが自分達シマウマを食べることがないとわかっており、私の場合で言うなら、ビッグコミックスピリッツを立ち読みする際の『新・ブラックジャックによろしく』や『美味しんぼ』に対するような態度をとっていました。つまり、まるで目に入らない。彼らはワンさんに対して、「俺達は『団地ともお』を探しているんだ。『美味しんぼ』はすっこんでろ」とでも言わんばかりのなめきった態度で、うるさそうに尻尾を振るばかりでした。
 その二秒後、歴史が変わりました。白黒から飛び出た赤色を目にした我々はワンさんに続き、それからのガゼル・シマウマという二大主食のうちの一つを手にしたのです。