チャームポイント

 わかりやすく言うと、例えばドラゴンを倒しに行くんならより多くのチャームポイントを持っていてほしい。小学校の卒業文集、色々な「○○しそうな人」ランキングで一つもランクインしないような奴に、誰がドラゴンを倒して欲しいと思うだろうか。会社勤めのお前には絶対にドラゴンを倒しに行ってほしくない、それがみんなの正直な気持ちだ。
 その人のチャームポイントの数だけ、その人が産まれた時から持っている「あんたがヒーローポイント」は倍にされると言われている。つまり、産まれた時に100あんたがヒーローポイント持っていようと、チャームポイントを1つしか持っていなければ、産まれた時に30あんたがヒーローポイントだったけどチャームポイントが4つある人の魅力には吹き飛ばされてしまうのである。100対120なのである。チャームポイントというのはそれぐらい重要で、産まれた時のあんたがヒーローポイントが数としてはっきりつかめないとなると、これはもうチャームポイントの数で全てが決まるようなもんなのだ。
 そのような理念で開催されたチャームポイントグランプリだが、左目だけ二重、で順当に勝ち上がってきたメンチカツ岡田サンドよしあきと、ストップウォッチ見ないで5秒00、で強豪をなぎ倒してきた新星、ジューン林ブライドひろしが決勝戦で相まみえたのは、当然の結果といえるかも知れない。なぜなら、そんなユニークな名前で登録してきたのは二人だけだったからだ。
「俺は、左利きだ」
 メンチカツ岡田サンドよしあきがそう言った時、目の肥えた観衆からは惜しみない拍手が贈られた。これで、利き手に関しては負けがなくなった。人と違う自分が大好き、という気持ちを持っているんなら左利きはいわば必需品だが、ここをしっかり押さえてこれるのは大きい。
 マイクが、メンチカツ岡田サンドよしあきの手からジューン林ブライドひろしの手に渡る。
「両利きだ」
 地鳴りのような歓声があがった。その手があったか。両利きのあいつはテレビゲームを普通の人の二倍ぐらい上手にやるのではないか、テニスなら両方フォア打ちということに出来るのではないか、一球ごとに右打席に入ったり左打席に入ったりするのではないか、という期待に、観衆はもうメロメロだった。チャームポイント的には、2ポイントゲットだ。
 しかし、審判が「審議」という意味をこめて旗をあげた。確かに口だけなら誰でも言える。ここは一発、両利きである証拠を見せてもらわないと合点がいかねえ、メンチカツ岡田サンドよしあきはそんな気持ちだった。
「いいでしょう」
 ジューン林ブライドひろしは黒マジックを取り出し、まず、右手で、左の掌に「熊」と書いた。
「流れるような、普通の字だ」「問題ない」「奴は右手が使えるんだ」「でもなんで熊なんだ」
 ジューン林ブライドひろしが黒マジックを持ち替えたところで、メンチカツ岡田サンドよしあきが手を上げた。
「左手で書く字は、こっちで指定させてくれ」
「いいでしょう」
 ジューン林ブライドひろしが一旦、マジックのキャップを閉める。
「メンチカツの野郎、さてはとびきり難しい漢字を言って、ジューンブライドを奈落の底に引きずり込む気だ!」
 観客の一人が叫ぶ。
「気をつけて、ジューンブライド!」「負けないで!」「絶対に書いて!」「漢字の知識を持っていて!」
 今日の午前中にジューン林ブライドひろしのファンになってしまった女性ファン達が金切り声をあげる。
「じゃあ……」
 メンチカツ岡田サンドよしあきがジューン林ブライドひろしを指差す。
「職業の職、だ!」
「メンチカツ岡田サンドよしあき、1ポイント減点!」
 間髪入れず、審判が叫んだ。小学生が「画数多いなこの字」と思う、でも別に書ける漢字をあげるのは、この状況では、確かにチャームポイント的には減点材料だったのだ。
「熊はいいのかよ!」とメンチカツ岡田サンドよしあきは叫んだが、聞き入れられなかった。