ホットドッグ・ドラゴン

 ホットドッグしか食べないホットドッグドラゴンをひろったアキヨシのおこづかいが、今日、「妖怪ウォッチ真打」の購入のあおりを喰らい、底をついた。
 このままでは、飢エ死ニだ!
 だからアキヨシはドトールまでホットドッグドラゴンを駆った。
 ホットドッグ・ドラゴンは手始めに、月面のようなニキビ面、宮川大輔のようなメガネ、立ち枯れたネコ草のような前髪をしたバイトリーダーの冷凍たこ焼きのような頭蓋をかみ砕き、前の人が注文していたチリドッグを丸呑みした。
 チリドッグを食べると炎を吐くことが出来ることまでは確認している。禁煙席に向けて口を開けたホットドッグドラゴンは、トマトを吐くまで食わせた老人のゲボを沸騰させたような凄まじい火炎で、金にものを言わせて飲み食いしている、血液に小銭の鉄粉と豚骨エキスが充満しているにちがいない野蛮な者どもの体を焼き尽くした。
 地獄の業火。十数人分の断末魔の叫び。意識の高い大学生の声がひときわ甲高く木霊した。ホットドッグドラゴンはうっとりと目を閉じ、床に転がっているきら星の如きミラノサンドに目をつけた。
 アキヨシは息をのんだ。ただでさえ恐ろしいホットドッグ・ドラゴンが、倍の値段するミラノサンドを喰らったら、いったいどんな恐ろしいことになってしまうのか、アキヨシには想像もつかなかった。
 しかし、ホットドッグ・ドラゴンはにおいを嗅いだだけでそっぽを向いた。
「そうか、ホットドッグしか食べないんだ」
 アキヨシは3DSの電源を入れた。かしこいホットドッグ・ドラゴンは、せっせとパンとソーセージを出してきて、自分でホットドッグを作っては食べていた。別々では食べないのだ。それにまたがったまま、アキヨシは次々と妖怪メダルをゲットした。
 喉が渇いたアキヨシは、そばにあった手つかずのコーラをつかみとり、一口飲んだ。しかし、すぐに吐き出した。
「うぇっ、なんだコレ! 魔女の乳首のように冷たく、苦いッ!!」
 持っていたアイスコーヒーのグラスを、カウンターの下で出荷寸前のブタのように震えていたおばさんの頭にぶち当てるアキヨシ。おばさんは出荷寸前のブタのようなおののき声をあげて、鍋の残り汁のような血を流して気を失った。
「気取るなよ、おばさん。スーパーキッズが自分の孫だったら自慢するくせに、他人の孫だと罵詈雑言あびせる卑劣な魔女め。おい、ホットドッグ・ドラゴン!」
 とアキヨシは声をかけた。アキヨシは今の子どもだから、どんなに仲良くなっても動物に名前をつけない。その動物はきちんと分類されて名がつけられていているからだ。そして、その中のどいつだろうと同じだから。パラメーターも一緒だから。どこで育て方をまちがえたのだろう。
「この悪しき魔女の服を、はぎ取れ!!」
 アキヨシが命令すると、ホットドッグドラゴンはおばさんのワンピースの股ぐらの生地をくわえ、そのまま上に引っ張り、おばさんを一回転させながら、服を破り取った。おばさんは、出荷寸前のブタが下着をつけたような姿で、うまいことテーブルに乗ってしまった。
「醜い醜い、実に醜い体だ……! 魔女の体じゅうの垢や角質を丸めて干して、仕上げに夜な夜な煮込んでいるあのスープをかけたらこんなのが生まれて地上を埋め尽くすにちがいない。いや、もうすでに埋め尽くしているんじゃないか? その証拠としてこういう魔女の飼い豚が、こんなところでのうのうとコーヒーを啜って私腹をあたため歯を黄ばませているんだ……!」
 その頃には、サイレンの音が近付き、あるいは止まり、パトカー、消防車、救急車がドトールを囲い込んでいた。赤いランプの光は、炎の紅にまぎれることなく、あたりに薄い膜を張った。アキヨシはDSの電源を直でOFFり、それを眺めた。
「なんてド汚い色だ…! 魔女の鷲鼻を鰹節のように削り取ったら、あんな色をして壁にへばりつき、一生取れないことだろう……今や、日本列島の全てをあの膜が、魔女の濁った処女膜が覆っているのだ。まるで蜘蛛の巣だ! もう家出だ! 全てのくだらない奴らに、オサラバだ!」
 ホットドッグドラゴンは飛んだ。彗星のように飛んだ。
 翌日、「めちゃくちゃ魔女に喩えるドラゴンに乗った少年」が指名手配された。警察がつかんでいるのはその情報だけだった。