メイサ~乳房になった女~

 右乳房が黒木メイサの顔になる奇病にかかってしまった15歳の野良子(のらこ)は、気の強いメイサにお気に入りのブラジャーを食い破られた。
 風呂場の脱衣所で、眼帯みたいになってしまったブラジャーを手に、思案に暮れる野良子。鏡に映ったメイサはつんと上を向いている。見つめられているのに気づくと、鏡越しに女優の迫力でにらみつけてきた。野良子は目を逸らした。本物みたいに表情豊かだったが、喋ったことはない。
 こんなことでは、わたしは一生、処女なのではないかしら。湯につかりながら野良子は考える。メイサも、湯の中にいる時ばかりは息を止めて神妙にしているので、一日のうちで野良子が落ち着けるのは、風呂に入っている時だけなのである。そのうち湯の中で目を見開き苦しそうに顔をこわばらせ始めるので、意気地のない野良子は背筋をのばして湯から上げてやる。ぱぁ、と唇の離れる音がする。また湯につけると口を閉じる。上げる。ぱぁ。野良子は気が狂いそうになる。
 突然、格子のはまった風呂場の窓がガラリと開いて、野良子は肩を飛び上がらせて驚いた。その奥に黒い目出し帽の顔があることを知ると、目を見開き、身じろぎし、固まった。波打った湯から、ぱぁ、という音が聞こえた。
 目出し帽からのぞく充血した二つの目は、野良子に突き立てられていた。アルミ製の格子や目出し帽のせいで顔がほとんど隠れているのに、レイプをしたいという表情を読み取ることができた。レイプをしたいという気持ちは何よりもすごいので、いとも簡単に、少し持ち上げるようにしただけで、アルミ製の格子が丸ごとはがされてしまった。この男のような気持ちで全ての力仕事が遂行されるのだとしたら、人類はもっと進歩を遂げていたにちがいない。
 男が窓の桟に足をかけて乗りこんでくると、肌に影を落としたような股ぐらが見えて、下に何もはいていないことが知れた。かなり頭のいい男である。
「い、いやー」と野良子は覇気のない悲鳴をあげた。慣れてないからだ。
「そんな感じで静かにしといてください。お願いします。ありがとございます」声は若かった。自分よりも年下だろうと野良子は思った。
 レイプ相手は湯船の中に立ってすね毛のほとんどない脚を膝まで濡らしながら、ちびた鉛筆のような性器を野良子の目の前にさらした。白い肌がきめ細やかで、やはり年下だろうと思われた。
「くわえんのどうスか!」とレイプ相手の少年が圧力鍋から漏れ出すような声でささやいた。
 野良子はどういうわけか咳払いした。それが一瞬、相手の気を逸らしたらしく、レイプ相手は何かに気づいた。
「あ、黒木メイサだ!」
 弾むような声だった。野良子の胸に芸能人を発見して声をあげたのだ。彼は腰を落としつつ、みすぼらしい性器を黒木メイサに向けて出発させた。
 ぱぁ。メイサは口を開いて彼の鉛筆を迎え入れた。さしこまれた性器が見えなくなった瞬間、口がすぼまってはっきりした線が両頬に走った。少年と野良子は「あっ」と同時に声をあげた。野良子の顔にはTシャツをまくり上げた少年のやせた熱い腹が顔に押しつけられていたが、まったくそれどころではなかった。
 少年は天井を見ながら、引けそうになる腰を快楽のために必死に前へ押しこんでいた。
 その時、メイサの頬がこわばった。同時に、じゅりっという音が胸の方でした。
「あ?」と少年は情けない不鮮明な声を出した。
 何か野良子の想像を絶することが起きたのだが、十五の彼女にはわけもわからず震えていることしかできなかった。
「あ、あ」とすがるような声を断続的に出しながら、少年がゆっくりと腰を引いた。引き抜くようなその動きにもかかわらず、メイサの口からは何も出て来はしなかった。そこにはあるべき何もなく、ただ下腹部が離れたのである。
 黒木メイサは思いきり頬をふくらませた。その口元から血が垂れていることに野良子が気づいた瞬間、赤い霧がはしたない音ともに勢いよく噴き出された。
 その音と飛沫に驚き、自らの血を浴びてレイプ道具を失った少年は青ざめた顔で元来た窓から飛び出していった。
 にわかに風呂場に静寂が訪れた。野良子は、血に染まった風呂の中でメイサを見下ろしていた。メイサは喉を鳴らして何かを飲みこんだ。
 呆然としている野良子は、深く、ゆっくりと息を吸いこんだ。空気が胸に満たされると、腹の中へ何かが降りていくのを感じた。腹痛ともちがう染み込むような鈍痛に野良子は顔をしかめた。痛みがナイフのように鋭くなりながら下へ下へと極まってきた。「痛い痛い痛い痛いたいたいたい!!!」裂けるような痛みを未熟な性器に感じた刹那、かたい小さなものが奥からつるりと出てきてひっかかった。指でつまみ出して、かたさに驚き、湯の中に放すと、それは、今は野良子の血でますます赤くなってくる湯の中を揺れながら浮いてきた。
 ぴょこんと湯面に立ちあがるように顔を出し、横倒しになってぷかぷか浮いているのは、先ほど目の前で見た鉛筆のようなペニスだった。それは何か膜のようなものに包まれていた。
「それが処女膜よ」驚いている野良子にメイサが初めて声をかけた。「ルパン三世、がんばります」