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シオマネキ

 水平線まで続く一面の干潟に、小さな人影。子どもが一人こんなにうらさびしい場所を歩っている。見たとこ小学3年生ぐらい。ONE PIECEのTシャツ1枚かぶって、ちんちんちらちら覗かせて、重たそうな一歩を、飛沫を跳ね散らかしながら着くたび足首まで泥に浸かりきって、首をきょろきょろ動かして、何かさがしている。
 でもボクは知ってるんですね。子どもはカニをさがしてるんです。
「電話くれた子?」
 1匹のシオマネキが少年に話しかけた。
「はい」
「じゃあ、ちんちん出して」
 少年は恥ずかしそうに黙り込む。
「もう出てるか」
 言いながらシオマネキ、少年に向かって、大きなハサミをガバリと縦に掲げた。海面に反射した光が透けているそのわずかな隙間のへりを、粘り気のある泥水のしずくが糸を引くように滑り落ち、めちゃくちゃくちゃ動くHIDAを演出しながら妖しく輝いた。
「キ、キャタピラ……?」
 HIDAの概念の持たない少年の生唾は、あの頃、猿の頃に培った脳の働きによってゴクり返した。未突出の喉仏の芽が震えを催し、全身に控えめな総鳥肌。ちょーどいい塩梅の緊張感。体が順々にHOT HOTしたお裾分けを少しずつ前立腺に流しこねくり回したら、来た、来た来た来た、待ちに待った亀の大・夕焼け。何て言うかな、大御所がスタジオ入りする時みたいで。静かな迫力がお袋さんからせり上がってきてさ、どこからか聞こえる注意の声にも耳を貸さずに、どこへ行くかも告げずに、そのくせ何かを決意したような素振りで。いつもそう、あなた達はいつもそう。
「おれ、立っちゃった」
 少年は素直に申告する。度胸のあるタイプだった。
「この正直者」
 シオマネキはOKサインのつもりか、ハサミを少し開いた。奥から差しこんだまっしろい御来光の余りの量。そして質。それに驚くべきはこの無臭。なんたる眺め。光っているのか濡れているのか大量のカラシ入りなのか、万に一つもわからないで大混乱の少年は脳裏に沢山のめし粒を残し、目がつぶれそうになった。
 かさにかかって攻め立てるシオマネキはハサミを閉じたり開いたり。光の強弱が出し入れの予感となって少年の目を濁らせる。気づけば少年はみっともない四つん這いになってハサミの目前に顔を陣取り、Tシャツも頬も泥だらけになっている。
 頃合を見て、シオマネキはうなずいた。
 少年はハッと気づいて、大人のような子どものような、自分の番がきた松本人志のような執拗な咳払いを繰り返した。照れて少し笑っていた。
 いつもの少年ではなかった。我を失ったまま、怒張した鎌首を腰ごと前進。出発だ。
 やがて、その若々しさの先っちょがシオマネキのいやらしい隙間にゆっくり密着した。そこを逃げ場と見つけた熱いチョコレートのような流動体がその隙を包み込むように満たしかけ、溶接したようになめらかな輪郭を作り上げる。
 少年はそこをこじあけようと押し込んだ。先がつぶれかけて滑って逃げる。しかし何度も挑戦する。
 汗をかき、鼻までつまり出した少年の体はいつの間にか均等に三つに分かれ、問題になっている真ん中の部分だけが、上と下が愚直に留まっている行為のし始めの地点から7mも離れていた。シオマネキの足が描いた8本の筋が干潟の泥に描かれて、少しずつ消えて行った。
 そして、ついにその熱意が報われる時が来た。
 ズルンと音を立てて、もろとも奥に消えて下腹部がハサミにくっついた。
「あっ!」
 少年が声を上げた時、もうそれはちょん切られていた。
 腰を引いた少年はその事実に気づき、素っ頓狂な声を上げたあと、遠出していた三等分の体の真ん中が、ゴムのように勢いよく戻っていった。その勢いで、少年は体前屈の姿勢のまま何十メートルも吹き飛ばされて、そこから這々の体で岸へと向かっていく。泥だらけの姿はやがて見えなくなった。
 シオマネキはハサミを大きく開いて言った。
「ハッハッハ、これで百人斬りだ。馬鹿ばかりだ」
 そして、既にしなびた花のようになった少年のペニスを、シオマネキは小さい方のハサミでつまんで引き寄せた。
 これ以上はいけませんね。シオマネキは食べるんです。少年のそれを実に美味しそうに食べるんですね。だから普通はこういうことはしてはいけないんですけど、そこでボクは声をかけたんですね。ムツゴロウからちょっと一言といった具合に、
「勘違いするなよ」
とこう、声をかけたんですね。
 シオマネキは、あれ、なんだ? と驚いてこっちを振り返りましてね。ボクは続けましたよ。
「君が傷つけたんじゃない、君が傷ついたんだ。傷つく奴が馬鹿で、馬鹿は君だ」
「ムツゴロウさん? どうしてこんな所に? 今って、何してらっしゃるんですか?」
 何を言われようとボクはもう殺すつもりですから、さすがにぼろぼろ涙がこぼれましたね。この涙はね、とてもずるいんですね。でも勝手に出てくるんです。これにはまいりましたね。困りましたね。
「君は百人斬りを達成したんじゃない。百人に犯された哀れな存在だ」
 ボクはそう言って、一歩一歩ぐんぐん近づきましてね、その大きなハサミの隙間にね、両手の指を互い違いに、こう、グッと入れましてね、力任せにカ――ッとこじ開けてやりました。ミリミリミリミリと音がしましてね、徐々にこう開いていくんですね。90度も開きますとね、根元のところから、ゴキッという実にいやな音がしましてね。
 そうなるともう抵抗はしませんよ。泥にひらぺったい体を伏せてぐったりしているんです。その目はね、ワタシを激しく恨んでいる目なんですね。殺してやるという目ですよ。もうピクリともしないんですけども、恐ろしいんですね。だから容赦してはいけないんですよ。完全に引きはがして、ハサミの上と下、別の方向に思いきり投げましたね。恐ろしいですね。
 手もブルブル震えてましたね。それで、ようやくワタシは少年のちんちんにありつくことができたんですね。泥だらけなんですけどね。こう持ってですね、ちゅるっと口に入れたら、すごく甘いんです。さっきまで生きていたわけですから、もう、この世のものとは思えないほどなんですね。いや、これには感動しましたね。