童貞おまんこ一変化

 午前8時の集合は、朝ごはんをしっかり食べてこいと言うメッセージだ。どんなにハードなトレーニングが待っているか知れたものはない。でも、一体ちんこ が食べる朝ごはんなんてあるだろうか。前日10時に横たわり、6時に起きた僕のちんこは、ガラスのコップに満たしたヨーグルトをドア越しにしばし見て、早めに家を這い出した。

「おい君、ちゃんとメシを食ってきたのか!? 顔色が悪いぞ」

 三浦友和さんのちんこ先生は横一線に13本並んだ個性様々な生徒のちんこの中から真っ先に僕を見つけ出した。朝起きた時からそんな気がしていたので、不思議と落ち着いていた。

「元からと言うか、すみません。ぎりぎりに出たものですから」

「なぜぎりぎりに?」

「……朝起きられなかったもので」

「なぜ朝起きられない?」

「少し夜更かしをしてしまい」

「8時に来いっていうのは、しっかり寝て、しっかり朝ごはんを食べて、しっかりと万事準備をやってこいということだ。そんなこともわからなかったのか?」

(本当はそんなことはわかっていたのだ)

 僕のちんこは心の内でつぶやいた。

(証拠に朝方、そっくり同じようなことを思ったではないか。しかしそれを誰が証明しよう。自分にすら無理なのだから、どうして人に伝えよう。いつでも一人いるのは、こんな時に困りものだ。証人が一人もいないまま生きていくしかない。だいたい、みんな朝ごはんなぞどうやって食べるのだろう。それとも高度な暗喩で、それをみな理解しているのだろうか)

「頭が回らなかったのです」

「夜更かしをしたせいだ」

「ええ、そうです」

 殊勝に言いながらも、僕のちんこ は、前日早く寝なかったことを含めて「頭が回らない」といっているのではなかったのかと混乱した。そのせいで今、初めて自分の非が音を立てて屹立し た気がする。途端に、他のちんこ達がむけてくる乾いた視線が無性に気になり始めた。みな、斜めに傾いでこちらを覗きこみ、扇子の骨のように、自分から遠ざかるにつれて角度を変えて、自分を取り囲もうと広がっている。端にいた生徒のちんこはすっかり床に横たわらなければならないのだった。

「実にそうだと思います」

「実に?」

 体育館の二階窓から差し込む光を遮る柱の陰に亀頭だけを飛び込ませたように黒々ともたげている三浦友和さんのちんこ先生はぴくりとも動かず、年長者と成功者の落ち着きと自信をその影に纏っていた。

(こういう人には、言っている論理に多少の綻びがあろうとなんだろうと関係が無いのだ。僕の思う事にどんなに筋が通っていようと、ここではこの人の言いなりになるしかない)

 そう僕のちんこは考えた。

(真面目に考えるのがバカらしくなる。でも、真面目に考えなければ自分を保てないのだからどうしようもない。いっそ、まるまる損をして生きていく覚悟をここで決めてしまおう。そして金輪際、愚痴や泣き言をいうのはよしておこう)

「いえ。なんでもないんです。すみませんでした。でも、体調は驚くほどいいのです。これは本当のことです」

「君は妙な言葉遣いをする。この先、ずいぶん損をするだろう」

  三浦友和さんのちんこ先生はそれで僕のちんこに興味を無くしたようだった。いや、最初から無かった興味が、我慢の限界を迎えたと言ったほうがいいかもしれ ない。いずれにせよ、真相は穏当を欠いた会話の余韻に煙を巻いた。確実なのは、その煙の全てを僕のちんこが吸い込むことになったということだった。

 練習は始まった。

 実を言えば、僕のちんこがこの教室に来るのはもう三回目だった。朝8時に始める意図も、初めて習いに来た際に三浦友和さんのちんこ先生から聞いたものだった。

「それでは、みんな1回やってみようか」

「先生」

 隣の井口隆久という高校生のちんこがカリ首をちょいと跳ね上げた。

「先生のお手本、見たいっす」

「あ~~?」

 三浦友和さんのちんこ先生は、僕のちんこと喋っている時より一段も二段も高い音を出しながら、軸を残して揺れた。

「しょうがないやつだな。まあ、手本は必要だからやってやらないこともない。ただ半勃ちで突っ立っているだけで、先生を名乗るのもどうかと思うしな」

  生徒達のちんこ達から歓声が上がった。みな、湿り気のある金玉をぺったり体育館の床に落ち着かせて器用に揺れている。僕のちんこは土気色に乾ききって全くもって安定せず、同じように揺れるとすぐに後ろへ袋の皮をみっともなく伸ばしながら倒れそうになる上、元から揺れる気もなさそうであり、触ってみなければ 生きているかもわからなかった。

「よく見てろ」

 そう言って、三浦友和さんのちんこ先生はおもむろに日高屋のレシートを亀頭にのせた。みな黙り込んだ。いつの間にか、三浦友和さんのちんこ先生は二倍に膨れあがっており、その血管を破裂させんばかりに浮き上がらせていた。

「いくぞっ」

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 甲高いヒューヒューという声。

山口百恵のまんこ~~~!!」

(その声だってどう出すものか僕にはわからない)

 そして何より、僕のちんこには全然、そのみんなのちんこが見ている山口百恵のまんことやらが、夢の中で光を浴びたように見ることができないのだった。目を向けたところで、ぼやぼやと粒だって活きのいい霧のようなモザイクに包まれて、なんとなく形が見えるだけだ。

(僕にはあれの正体がわからない。見たことも触ったこともないからだ)

「丸見えの山口百恵のおまんこ~~!!」

「いや別にお前たち、これは百恵のまんこってわけじゃないからな」

 三浦友和さんのちんこ先生が化けた山口百恵さんのまんこが喋った。

「百恵って呼んでるんですか?」

 小さいが赤黒さでは三浦友和さんのちんこ先生にも勝る生徒のちんこが茶々を入れた。

「バ、バカヤロウ! よし、やってみろ!!」

  かけ声一つで笑いが快い様で寸断されて、生徒達は裏筋をただし、まっすぐ前に向き直った。そこで僕のちんこは自分の振舞いに気がついた。横に並んだちんこ 達をにらみつけていたので、山口百恵のまんこと言われる、どどめ色とりどりにベールの形を入れ変える物体が迫ってきた。つまり、一刻の猶予も予断も許 されない。落第生であることは承知していた。もはや一つのミスが命取りだ。

「しゃんと立つんだ」

(どうしてこうも、わかりやすくつらくあたるのだろう)

 三浦友和さんのちんこ先生が化けた山口百恵のまんこが横を向いて他の生徒のちんこ達の様子を確認したので、僕のちんこには彼女のつるつるした肌の部分がはっきり見えた。

(押しつけたい。山口百恵さんは大スターだったらしいし、どんなにいい気分になることか見当もつかないぞ…)

「いいぞ」

 声をかけられて、かり首をもたげようとして、僕のちんこは勃起していることに気がついた。

「はい」

(結局、いやらしいことを考えていればいいということだろうか。そういえば、この心許ない滑稽な姿のことを、その時ぐらいは忘れられるようだ)

「余計なことは考えるな」

(どうやらコツをつかんだようだ。次は、レシートを頭の上にのせなくてはいけない)

  レシートを取り出そうと懐をまさぐったところで、それがないことに気づいた。昨晩、準備をしたはずだし、今朝も確認したはずだ。早起きをしたせいで、他の ことに気を取られる隙ができてしまったのだろう。僕のちんこがだらしなく夜更かしをしてしまって、ぎりぎりまで寝てしまい、ヨーグルトなど眺めることなく、この支度だけをして出かける時間しか残されていなかったならば、必需品のレシートを忘れることなどなかったのではないか。絶対に下駄箱の上だ。玄関 で、少し気分を入れ換えるために佇んだあの時、置き忘れたのだ。

「さっさとレシートを出さないか」

(かかわりなど持ちたくない。ほっといてもらいたいや。お願いだから)

「早く」

(言葉が短くなってきた。もうおしまいだろう)

  そんなことを考えているから、僕のちんこは徐々に萎えてきた。実際、そんな不埒なことばかり考えて生きていけるものだろうか。最初に行き着くのも最後に行 き着くのもそこにあると多くの人が感じているのなら、死んだらおしまいではないか。百年後、そこそこがんばってそこそこ遊んで楽しく暮らしたと誰に申し立 てるつもりなのか。

「3回目にして、レシートを忘れたな」

 みな注目した。

「ということは、今までしたことを覚えてもいないし、やる気も無いということだ。そして、私が君に注いだ労力を無にして、裏切ろうという気だな」

(ずいぶん大きな声を出すんだな)

 もう一度いいぞと言ってもらいたい一心で頭を回し、レシートを取り出さなければいけないことに思い至ったのに、その小さな進歩を見逃されたばかりか、失態をあげつらわれたことで、僕のちんこの意気はそがれていった。

 こうなっては黙りこくるしか能が無く、ただそこにいることにしたせいで、三浦友和さんのちんこ先生は見かねて言った。

「お前はやってもできないし、まず、上手くなろう、楽しくやろうという意欲が感じられない。そんな奴は、何をやってもダメだろう」

  三浦友和さんのちんこ先生は、相変わらずぼんやりとした小四角に埋め尽くされて見通せない。時々、ちらと動く度に、小さな四角の色が隣同士で入れ代わっ た。それだけのことで、取り返しのつかないほど怒っていることはわかった。事あるごとに思い出し、そのたびに気を荒だてる思い出になっただろう。

(あなたの人生に、僕のような他人は何の関係も無いのに、勝手に腹を立てて、いい気なものだ)

 僕のちんこは何も言い返せず、見返す手立ても意気もなく立ち尽くした。

 途方もない沈黙が続くうちに、僕のちんこの横は全部、少しずつ明るさは異なるが、目の前のものと同じものが並んでいた。いつの間にやらおまんこだらけ。明瞭な視界を狭められ、真っ当な遠近感を狂わされ、体育館がいささか息苦しく感じてきた。

(くさい、すごく、くさいぞ)

「何か言ってくださいませんか」

 心の内と、口の外で同時に言った。外に出た方は、1本の生殖器が言うには余りにもいたたまれない、懇願するような口調だった。

「君には何を言っていいものやら」

「いいえ、弁解を求めたのです」

「弁解?」

「そう、弁解です」

「何を言っているんだ?」

「ただのわがままです。僕はもう約束を破りましたね」

「もう一度言う。何を言っているんだ?」

 そして、彼らと言おうか彼女たちと言おうか、不気味な格子で象られた意欲まみれの塊が、僕のちんこに一斉に詰め寄って、その身をすりつけてきた。

 得体の知れない粘膜が得体の知れない粘膜にはりついた。今度はそのせいで何も見えなくなり、温かさの中で何かの沁み出す水音がした。それでも、知ったことかと思わなければ。

 この世のひどい居心地の悪さをこの世のせいにはきっとしまい。僕のちんこは鈴口を結んで、ゆっくり後ろに倒れていく覚悟だけを見せてみることにしたらしく、そしてその通りに倒れた。何を考えているのだろう。