読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

鈴鹿で一言

「投げても飛ばないセミは本当に終わり」が座右の銘のF1ドライバー、四輪駆動ワタルの半生は、
「まるでこのヘアピンカーブを曲がるみたいだったぜ!」
 と叫びながら、色とりどりのボタンがいっぱいついたハンドルを左に二十回転させるワタル。見事に、女が髪をビタッとさせるために使うヘアピンにたとえられる魔のカーブを制した。
 長い直線に入り、しきりに緑色のボタンを連打して、一度押すごとに0.5秒しか流れないモーツァルトのなんかの五番を聞きながら、ワタルはすばらしい動体視力で、コース脇の通ってもセーフな部分、赤と白のシマシマ部分を大きなヘビと見間違えた。
「このコースには魔物がいるぜ、セナーーー!」そしてハンドルを大きく左右に切りながら、ジグザグ道をゆく。「ていうかヘビ! ヘビがいるぜセナーーー!」
 天国への報告を済ますと、お次は青色のボタンを押すワタル。ハンドルの中央部がパカリと音を立てて開いた。缶コーヒー(エメラルドマウンテン)が「ジョージアへようこそ」顔を差し向ける。
 ワタルは普段から、ヘルメットのガッチャマンでいえば顔が透けて見える部分を下げないことで有名だが、それは走行中に、世界で一番飲み食いするからである。だから打ち上げで全然食べない。
「な〜んでガッチャマンのところを下げないの!?」
 ピットクルーからの指示というか質問を聞きながらコーヒーをぐい飲みし、その間に一台抜かされたが、すぐに抜き返した。そして、そのまま空き缶を車外へ放り投げるワタル。マリオカート感覚でここまで上り詰めたワタルの罠に、マクラーレンのマシンが派手にスピン。ドンキホーテで買ったサイドミラーに小さく映ったジェンソン・バトンがここまで貯めに貯めたコインをまき散らす様を、赤いボタンを押しつつ、ワタルはチラリと一瞥した。
「道端ジェシカ」
 クールにつぶやいたワタルは目を閉じ、つづけて黄色のボタンを押した。すると、
『道端ジェシカ』
 たった今録音された声が再生された。特に意味はない。