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ウエスタン


 皆さんには夢がありますか。
 僕の夢は、強いて言うならいつもカッコ良く登場すること。決して、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンしてしまうのではなく、頼んでもないのに列車の後ろから登場したり、呼ばれてもないのに暗闇に座ってたり、いきなり「5000ドル」と叫んで二階から競りに参戦して仲間を売ったり、何か知らないけどハーモニカを持っていたりというあれこやこれやです。
 でも、人間は、ついつい呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンしてしまう。どんなに才能にあふれた人でも、孤独にクールにダーティに一匹狼を地で生きていこうと思いつつ、結局は、なんか気取ってっけど、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンしているということがある。
 この映画を見た誰もがブロンソンの神出鬼没のポジションに憧れを抱くはずですが、この世界で生きていくことはそういうことではないらしいというのはご承知の通り。


 しかし、開拓前の西部は違いました。どこからともなく現れ、いったん去って行ったと思ったら、また来てカッコいいこと(だいたい殺し)をして、いい女がいるのに去って行くことが可能な時代でした。
 この映画は、西部に鉄道という名の血が行き渡り、老いも若きもカッコいい奴にもそうでない奴にも鉄の足が生えていくまさにそんな時期の、ラス一のカッコよさの締めくくりを描いています。列車の上に隠れてるはずなのにブーツが見えてシメシメと思ったら、つま先から銃弾が飛び出してきたり、みんな生き生きしてる。
 でもラス一だからもちろん、イカした奴らも死に、滅び、消える運命にあるということを逆説的に描かざるを得ない危険な果実なのです。
 ヘンリー・フォンダはみんながイカしていたあの頃の因縁でカッコよく死ぬことが出来たけど、それで本当に終わり。あの頃の因縁はブロンソンのめちゃドアップを起点に回想され、ハーモニカの件ともども「そうだったのね……」と言わせてくれる名シーンですが、それが終わった瞬間に始まる最後の銃声で、それで本当に終わり。ヘンリー・フォンダがハーモニカをちょろ吹きして復讐は終わり、復讐とともにカッコよさが終わる。あんまりです。
 そこでは、カッコよかった者がカッコよく去ることすら許されない。西部劇らしく女に「いつかな」とか言って出て行ってカッコよさそうに見えるけれども、そうでもない。その後がそうでもないのです。
 新時代の悪い奴である鉄道王のおじさん(モートン)は病に力尽きたけど、シャイアンは荒野の真ん中ではなく築かれる町をバックに、「汽車ポッポの旦那」とバカにしていたモートンにやられた腹の傷でじわじわと死ぬ。みんなロクな死に方をしない。あの気持ちのいい荒くれ者たちは一体どこに行ってしまったのか?
 シャイアンの言う「撃ち所を心得た奴を相手にしろよな」と言う台詞。もうそんな相手は直にいなくなる。これから先、カッコよくなんて生きていられないし、死ぬこともできない。かと言って労働者になって身を固めることなんて出来ないよ。
 でもそこはブロンソン。ぼろ雑巾のように丸まったシャイアンの骸を振り返るブロンソン。最後の仲間が死んじゃっても、むしろだからこそその悲しみやむなしみの中からカッコよさを顔だけで滲ませている。
 そこに汽笛が聞こえ、敷かれたレールの上を汽車がやってくる。ある者には終わりを、ある者には始まりを告げているのは明白で、その図々しさの真実に泣ける。
 なら、それを見たブロンソンはどうだ? ブロンソンは汽笛を聞いてまだカッコいいか? 気になるところはわからない。ここまであんなにどっぷり舐めるように見せてくれたのに、最後映るのは素っ気なくシャイアンの死体を馬に乗せて運ぶだけのブロンソン。でも偉いもので、ちょっとカッコ悪い。だから最高だ。
 最終的に残ったのは、地に足を付け、荒野に町を作り上げようとしていた男の未亡人と、名もないような労働者ども。君達はまさに「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」「出まして来ましてアクビちゃ〜ん」側の人間共。全然カッコよくないけど、次の時代を朗らかに生きる者に違いない。
 壮大な音楽、ついで悲しげな音楽が流れたあとは、平穏で働きがいのある日常を象徴するようなズンタカ・ミュージックが流れて映画が終わる……。う〜ん素晴らしい。


 きちんきちんと見れば非常にメッセージがてんこ盛りの映画で、コメンタリも見てみたところ、思うところをズバズバ言ってくれて気持ちが良い。ただ頻発する「西部劇あるある」がいまいちわからないのだけは心底悔しいので、今後も色々見ていきたいと思います。
 以上、黒部弘康でした。


 P.S. 最初に出てきたかわいいおじいさん駅員の写真です。


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