読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

高校野球の中

監督「今からお前達にブロックサインを覚えてもらう。野球は筋肉じゃない、ココを使ってやるものだ。そうだな」
部員達「はい!」
監督「もちろん筋肉も使う。そうだな」
部員達「はい!」
監督「よし。まずド定番のバントのサイン、これはもう決めてある。私が鼻くそをほじったら、バントのサインだ」
部員達「は、鼻を?」
監督「そうだ、鼻だ。ていうか鼻くそだ。鼻くそをほじったらバント。返事は!」
部員達「はい!」
監督「次、盗塁のサインだ。これも鼻くそを用いる。これも鼻くそをほじったら盗塁ということにしよう」
部員達「監督同じです!」「同じです!」「監督!」
監督「わからん。若本、まとめろ」
キャプテン若本「はい! 監督、それでは監督が鼻くそをほじくったとき、盗塁なのかバントなのか判別がつかないのでは?」
監督「お前ら」
部員達「は…はい!」
監督「私は二十年、野球部の顧問を務めてきた。二十年だ。お前達が生きてきた時間より長い間、毎日毎日、泥だらけの野球坊主達を眺める生活を送ってきて、わかったことが一つある」
部員達「……」
監督「試合中、すごく鼻くそがたまるということだ」
部員達「……えっ」
監督「ベンチに座り、試合を眺めているだけで、3回裏にはもう鼻で息ができん。野球部の監督というのは、そういう仕事だ」
部員達「……」
監督「お前が懸命のヘッドスライディングで巻き上げた砂埃が、誰かの鼻くそになっていることを決して忘れるな」
部員達「は、はい!」
監督「お前が無謀なダイビングプレーで巻き上げた砂埃が、誰かの鼻くそになっていることを決して忘れるな」
部員達「はい!」
監督「常に、鼻くそのたまり具合で物事を判断しろ。鼻くそがたまっている時、それは無駄な動きが多い時だ。鼻くそのたまるプレーをするな!」
部員達「はい!」
監督「考えてみろ、イチローはヘッドスライディングするか!」
部員達「しないです!」
監督「松井が手首を折った時、鼻くそはどうだった!」
部員達「沢山たまっていました!」
監督「鼻くその多い奴は無駄な動きも多い!」
部員達「はい!」
監督「息苦しい試合展開といったら、そういうことだと思えよ!」
部員達「はい!」
監督「よし! マネージャー、例のものを!」
マネージャー倉田「はい! ……みんな、今配ったのは、練習時に鼻くそをためる道具なの! 首にぶらさげておいて、プレイの合間合間に鼻くそを入れられるようになっているの!」
部員たち「すっげえ!」「見ろよ、口が広くてすごく入れやすいぞ」「ブレスケアの容器を改造するとは、考えたな」
倉田「一日の練習が終わったら、容器にたまった鼻くそを、それぞれの名前を書いた2リットルペットに入れていってね。部室に横一列に並べてあるから、一目で自分やチームメイトの状況がわかるわ。写メを撮って野球日誌に貼り付けていけば、自分の成長もわかるし、自分なりに有効活用してね」
部員達「……にしてもこれ、全部倉田が作ったのかよ」「部員全員分、50個以上を……?」
倉田「うん、昨日徹夜して。あっ、花粉症の杉山くんのには脱脂綿を入れてあるから、最後に抜いてから測定してね」
杉山「サンキューな」
部員達「……」
 部員達の顔にもう迷いは無かった。早く、自分の実力を知りたかった。
若本「よし、じゃあ、早速練習だ! 鼻くそが、たまらないようにな!」
部員達「オウ!」
 勢いよくダイアモンドに散っていく部員達。監督はその背中に心で声をかけた。
 お前達、これでもうわかったはずだ。ヤンキースのジーターに『鼻毛が一本も無さそうだな』というイメージを抱くわけを。お前達はジーター。未来のジーター。全員ジーター。