ミライのワライ

 西暦2030年の吉本総合芸能学院(NSC)に入学した僕は、最初の自己紹介で失敗した。
 故エドはるみが叩き出して以来ただの一人も出していないというキムキムじいさんの100点満点。誰もが虎視眈々とそれを狙っていた。それなのに、僕がした自己紹介ときたら思い出しただけでも顔から火が出そうだ。
「ズビ〜〜! はじめまして竹内といいます。ズビ〜〜〜!」
「かんっっがえられへん」
 次の日、僕は肩を落として部屋に入った。迎え入れたのは芸人の卵たちの冷たい目。よく冷えた明太子の一粒一粒のような、辛辣な無数の瞳はこう言っていた。初打席でスベった野郎に用はない、お前とは絶対にコンビを組んでなんかやるもんか。早くも僕は脱落してしまったのだろうか。
 今日の先生はキムキムじいさんではなかった。ラッキィ池田でもなかった。白衣を着ている科学者のような人物が入ってきて、東京理科大口調で言った。
「今日の授業は、2029年に開発されたタイムマシーンを使用します」
 僕たちは息をのんで説明を受けた。科学者が4月のカリキュラム説明会口調で語ったところによれば、今日の授業は「タイムマシーンに乗って、中学生の頃の自分に『お前は中山ヒデよりつまらない。ヒデちゃんはお前の何百倍も頑張っているし実力がある』と言いにいく」授業であった。
「君たちは、もっと自分の力の無さを自覚した方がいい」
 僕は、これは初めての授業で挫折した自分にもってこいの授業だと思った。
 他の生徒たちは、どうしてそんなことを言いにいかなければならないんだ、と反論した。つまり、全員が全員自分は中山秀征よりおもしろいと思っているのだ。
 やんややんや言うみなをよそに、僕はすでに一人タイムマシーンのドアのところに並んでいた。
 一刻も早く、お前はどう頑張っても中山秀征よりつまらないんだと言いに行きたい。そうすれば、昨日の失敗もなかったことにできるに違いない。
「JAPAN RHYTHM」(ジャパリズム)
 プシュー。僕はまだ教えてもらっていないはずの合い言葉を唱えて勝手にドアを開けた。体をかしいで中に入り、革張りのシートに座った。
吉田栄作
 プシュー。


(つづくはず)