三千世界の僕とカエル

 さっきまで後ろを走っていたはずなのに、気づくとカエルを追い抜かしていた。僕は宮崎アニメのように体を後ろに傾けることでスピードを落とし、カエルと併走した。
 カエルは、先に行け、とぱちくり目配せしたが、僕は、
「放っておけないよ! がんばれよ!」
 デューク更家の早歩き状態のまま雄叫びを上げ、カエルを励ました。
 カエルはそんな僕のセリフはともかく動きを見てどうやら、なめられていると思ってしまったらしい。それまではデフォルメされていたのに、一瞬にしてリアルなカエルにメタモルフォーゼしてしまった。
 本格的だ。気持ちは伝わると思った僕が大間違いだった。
 世界では、たくさんの動物たちが絶滅の危機に瀕しています。パンダとかよく瀕す。ときたま、ゴリラも瀕すという情報が出たり入ったりしています。そのたびに僕たちは、くちびるを噛んで、俺たちはわかりあえないのか、と思っています。最新の研究結果では、その時期(俺たちは動物とわかりあえないのかと思う時期)と、「もののけ姫」が金曜ロードショーでやる時期がシンクロしているという衝撃の事実が発覚し、卒論が三流大学で軒並みカブりました。
 後ろを振り返ると、暴走したピザ生地まわしマシーン(ミュータントタートルズから借用したアイディア)がギアをトップに入れる瞬間が目撃できた。本気だ。
 マシーンが人間を支配する恐ろしい世界になってしまったとしたら、動物たちはどういうポジションでやっていくんだろう。ホンコンのポジションかな。
 そう考えながら僕は涙ぐんだ。カエルの前にしゃがみこみ、おんぶを促した。
「乗れ!」
 その声は、カエルには聞こえなかっただろう。なぜなら、カエルは今日もヘッドフォンでおぎやはぎポッドキャストを聞いていたから。だから、さっきの僕の応援の声も聞こえなかったのだ。だから、なめられていると早とちりしてしまったのだ。
 でも、僕たちには身体的なラッキーチャンスが残されていた。今、僕が後ろに回した両手の「さあ来い」という手のピラピラは、見た目すごくよくカエルに伝わっていた。僕の背後で、カエルがみるみるうちに杉浦茂の輝きを取り戻していくのが、オーラでわかった。
「スプリンター先生!」
 心地よい重さを背に感じながら、僕は空に向かって力いっぱいに叫んだ。完。

※スプリンター先生……ミュータントタートルズに出てくる、ネズミの姿をした拳法の師匠。