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限りなくそうっぽい

 男が目を覚ますと、そこは六畳ほどの小さな部屋だった。四方を壁に囲まれているばかりで何もない。天井にはたった一つ裸電球が明滅し、この部屋を作った人物が殺風景で不気味な雰囲気を出したいことがすぐわかる。
「SAWの見すぎか?」
 男はつぶやいたが、最初のしか見ていなかった。
「俺はSAWの見すぎか?」
 それでも男はSAWを見たと言いたい。なぜなら、昨日見たばかりだからだ。昨日見た映画というのは、今日言いたくなる。
「何か指示を伝えるものやメモがあるはずだ」
 男はSAWを思い出しながらポケットを探ろうとしたが、すぐに全裸であることに気づいた。
「くそっ!俺の服がない!」
 男はバチンと両の太股をたたいた。


(そのまま、1分間、ハカを力強く唱え踊る男)


 やがて男は、腰に手を当ててあたりを見回し、下を向いてうなだれる。
「まさか・・・まさか俺は・・・SAWが気に入ったのか? だからこんな夢を見ているのか・・・? くそっ!」
 自責の念に駆られた男は、頭を抱えて勢いよくしゃがみこんだ。そのとき、ケツの方からカサリと音がした。
 ケツに、メモがはさまっていた。あと、中日ドラゴンズの帽子もツバのところではさまっていた。
「第一の指令だ!」
 男は中日ドラゴンズの帽子をかぶると、メモを読んだ。
「逃げろ!逃げないとビリビリ」
 その瞬間、壁からラジコンカーが飛び出してきた。
 しんぼるの見すぎか!?と言おうとした男だが、それは言わなかった。そのわけは言えなかった。
 ラジコンカーは、かなりのスピードでまっすぐ男に向かってきた。良くアップグレードされている。荒々しいタイヤ回転音が迫る。
「やばい・・! さわったらビリビリする!」
 男はラジコンを飛び越えた。
「くっ!」
 と歯を食いしばりながら全裸に片膝で振り返り、再びラジコンを視界にとらえるが、なんだかイメージと違う。メモの内容がそのまますぎるし、ケツにはさまれていたし、SAWっぽくない。
 そんな事情にはおかまいなしで、ラジコンはUターンして男を逃がさない。誰がどこから操っているというのか。
「ほっ」
 男はまた飛び、間一髪でラジコンをかわし、そして反省した。カッコ悪い声を出すと、どんどんSAWから遠ざかってしまう。
 対策として、着地と同時に、横たわって必死に転がる動きを入れた。でもそれがいけなかった。
 すぐさま進路を変えたラジコンが、転がる男の二秒に一回顔を出す乳首に命中した。そして、先端についていたこじゃれた金属性の洗濯バサミがネズミ捕りの要領で、乳首をバチコンはさみ込んだ。ラジコンの背中に取り付けられた直列単二電池から、一気に電流が流れ込んだ。
「んーーー! んーーー!」
 痛みをこらえきれず、狂ったようにのたうちまわる男。少しSAWっぽいか? いや全然SAWっぽくない。男は、乳首にラジコンをぶら下げて狂ったまま、いつの間にか立ち上がり、部屋を2周した。そしてこらえきれなくなったのか、死にに行く勢いで壁に激突した。
 すると、壁がいっぺんに倒れた。ベニヤでできていたのだ。その衝撃で、乳首からラジコンが外れ、飛んでいった。
 男は乳首を手ですっぽり覆い安心感を出しながら、ようやく起きあがった。そこには大きな空間が広がっていた。どこかのスタジオだろうか。
 その割には、さかさまになったラジコンがタイヤを空転させているほかは、閑散としている。
 横を見ると、倒れて半分折れたベニヤ板の下に何かあるらしく、斜めに浮き上がっている。板をどかすと、一人の男がうつ伏せに倒れていた。ラジコンのコントローラーを握っている。右手指はまだアクセルにかかっていた。この男がラジコンを操っていたと考えて間違いなさそうだ。ベニヤの下敷きになった時に気を失ったのだろう。
 男は回り込み、その顔を見た。そして、沈痛な面持ちで立ち上がった。静かに言った。
「マサ、お前だったのか」
 男は、自分のかぶっていた中日ドラゴンズの帽子を取ると、倒れている男の頭にそっとかぶせてやった。そして歩き出した。その間に気づいた、もう一個ケツにはさまっていた中日の帽子を、歩きながら体を斜めにして手に取りそのまま頭の上に置いた。
「俺流、か」
 ぽつりとつぶやき帽子を深くかぶると、落合監督は重い戸を開けて外へ出て行った。ここちょっとSAWっぽい。