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id:OjohmbonXさんとメシを食った

 ぼくはダメな大学生だ。彼女もできず、友達もできず、単位も取れず、2ちゃんねるは怖く、自暴自棄になって大麻を育てたら枯れた。
 お風呂場でせっせと育てていたが、換気扇をつけ忘れてシャワーを浴びた翌日、ビチョンビチョンのグデングデンになっていた。このイケない葉っぱはインターネットで1万円もしたんだというのに。1万円といえば、ぼくがローソンで一生懸命、お客さんと店長にどやしつけられながら10時間働いて、ぎりぎり買えないお値段だし、マンガ『リアル』の賭けバスケのお値段でもある。
 ぼくはもう、ぼくの人生の仕方がなさにうんざりしてしまった。テレビをつけると、また一つ、また一つとおっかないニュースが披露され、チャンネルをかえると、香取慎吾が和服で車の宣伝をしていた。
「ちぇ、SMAPはいいよな……」
 ぼくはそうつぶやいた。そのあと、くやしまぎれにチャンネルをかえていったところ、『ぷっすま』がやっていた。『ぷっすま』は、ぼくがテレビをつけた時はほぼ毎日やっている。ぼくはテレビ画面をにらみつけ、鼻を鳴らした。
「草なぎ君は髪型どうしちゃったんだよ」
 その瞬間、ぼくの瞳から涙があふれ出した。ぼくはバカだ。草なぎ君は、ツヨポンはどんどんハゲてきているけど、それがなんだっていうんだ。
 少なくとも、ツヨポンはその道がハゲてるに続いてるとしても、堂々として楽しそうで輝いている。隣にユースケ・サンタマリアがいる。女性芸能人とチームを組む機会には恵まれ、ゲームをしてはおいしいご飯を食べる時は食べる、歌えて踊れるスーパースター。Bメロで輝くタイプだ。
 ぼくの涙が枯れてしまった頃、いつの間にか『ぷっすま』は終わりにさしかかっていた。どうやら、エガちゃんが出演していたけど、もうどっかに走っていってしまったらしい。
「やたら江頭を尊敬してる奴いるけど、勝手にしろよ……」
 ぼくのお口は、ぼくがぼくを嫌いになるためにだけ動いているらしい。本当は、エガちゃんの名言集動画を見て、心にファイトを与えているというのに、なんてことだ。エガちゃんも少しずつハゲてきているけど、それがなんだって言うんだ。
 少なくとも、エガちゃんはその道がハゲてるに続いてるとしても、ぼくみたいにウジウジして、大麻に手を出して枯らせたりしていない。ぼくのハゲてるに続いてる道は、まだ21歳なのに、かなりの急勾配で、あと数年で頂上につきそうなほどだ。ぺんぺん草がぎりぎり生えて風に揺れているこの道で、ぼくはもう一歩も歩けない。
 その時、インターホンが鳴った。ぼくは、そこまで這っていった。
 壁が安物のアルミホイルぐらいには厚いレオパレス住宅の壁に五つの指先を左右に何度も突き刺すようにして立ち上がると、隣から「うるせーぞ!」と怒鳴り声がした。
 ぼくは泣きながらインターホンの画面に目をやる。こんな時でも、口が「すいません」の形に動いているのがぼくのイヤなイヤなイヤなところだ。
 さあ、ぼくの目に飛び込んできたのは、青にも黒にも似たポリス色。ポリスだ、ポリスが出た。婦警だった。小さいおばさんの婦警だった。心なしか、鳥取県で暮らす母に似ていた。
 ぼくの目の横を、違う液体がどっと押し寄せて一斉にすべり落ちた。捨てた大麻草が、キッチンの主力ゴミ箱にまだ入っている。ぼくの先にしょんぼり続いていた細い細い道のりが、いっぺんに畳まれて目の前にたたきつけられた。
『♪ 僕〜が僕〜であるために〜 勝ち〜続けなきゃならな〜い』
「お母さん?」
 インターホンから聞こえてきた尾崎の歌に、ぼくは言った。この尾崎の歌は、ぼくの母が、尾崎の歌と知らないでどっかの女性歌手のカバーを聞いて気に入り、よく歌っていた尾崎の歌。
『♪ ただ〜〜しいものがなんなのか〜』
 ぼくの母が警察官のコスプレをしてぼくを励ましている光景を、ぼくはじっと見つめた。
 時代から浮遊した全てのモノが好き勝手にポッケに詰め込まれ、取り出され、見比べられ、捨てられ、希望のなさを豊かさに透かして見れば、ポッケの中はいつもむなしい。ぼくたちはいつも正しく、振り向けばいつも間違っている。ぼくなんかの場合、500年後に振り返っても、まだ間違っているだろう。
『♪ それ〜がこの胸に解る ま〜で〜』
 それでも、ぼくは認めるわけにいかなかった。慰められるわけにいかなかった。母親なんかに心を入れ替えさせられるわけにいかなかった。それは、とてもかっこわるいことだから。
『♪ 君は〜街にのまれて〜 少し〜心〜許しながら〜』
 だからぼくはつぶやく。世界中に聞こえるように強く強く、つぶやく。
「関根真理が出たての頃の輪島のモノマネ、誰が笑ってたんだよ……」
 ぼくはゴミ箱をあさり、しなびた大麻草を見つけた。こいつをいためて、ホカホカごはんにのせ、蒸気を鼻から吸い込むことで不良の世界にトリップするつもりだ。
「関根真理の輪島のモノマネで笑う、そんな世の中が……」
 そして、左手でそれをかぎながら、交番に自転車で突っ込む。もう決めたんだ。