読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ハーメルンの四国一周銃連射、男一匹殺し屋修行

 四万十川のほとりを黒いスーツのグラサン男が一人、こんなに川面がキラキラ光って空は澄み渡っているのに、それには目もくれず、銃を断続的に連射しながら早歩きで歩いている。せせらぎとマイナスイオンに、物騒な銃声と弾を補充する金属音が響き渡っている。
 ところで、男の後ろには、四国の子供たちが三百人、足並みを合わせてついてきている。揃いもそろって、もう惚れたぜよ、という顔だ。
「もう、惚れたぜよ!」
 実際にも言っているが、さて、何がそんなに子供の心をつかんでいるのかというと、今度は男の前方に目を向けてみよう。
 大きな弧を描いて山間を縫って海へと下る四万十川をバックに、誰も乗っていない一輪車が、しっかりした車輪の回転で進んでいるではないか。時々、サドルの下の金属から火花が上がり、そのたびに速度を上げる一輪車。この男、指一本触れることなく一輪車を四国一周させるつもりなのだ。子供たちはわいた。そして、ジョー・ジョニー・ジョーの背中にある「殺し屋修行中」の張り紙を見て、叫ぶ。
「もう、殺し屋ジョー・ジョニー・ジョーには惚れたぜよ!」
 ところで、読者のみなさんには驚きの連続で申し訳ないが、ジョー・ジョニー・ジョーはなんとまだ十三歳なのである。ていうかその前に、さっきスーツのグラサン男と書いて申し訳ない。
 ジョー・ジョニー・ジョーは、ある大物裏組織から雇われている殺し屋頑固親父の息子である。ある日、ジョー・ジョニー・ジョーが父親の命令で読んでいた『ゴルゴ13』の最終巻を読み終えた瞬間、今週のビッグ・コミックが部屋に投げ込まれた。そのゴルゴも読み終えた瞬間、タオルを固く絞った肌着に腹巻きの父親(殺し屋)が戸をガラリと開け、銃を向けながら、ジョー・ジョニー・ジョーに四国行きのフェリーチケットを渡した。四国の民宿に着くと、一輪車と銃、そして「わかるな」という手紙が届いていた。
 『ゴルゴ13』を全巻読んでいたおかげで、ジョー・ジョニー・ジョーは一発目から一輪車を進ませることができた。もちろん、二千人殺している、そのうち千人はいっぺんに殺した、と言われる父の才能を色濃く受け継いでいた結果でもあろう。
「すごいぜよ、殺し屋ジョー・ジョニー・ジョーはすごい男ぜよ!」
「憧れるきに! 憧れるきに!」
 それに魅せられた子供たちは、途中の町で、家出同然でついてきてしまったというわけだ。
 ちなみに、言い忘れていたが四万十川のほとりは砂利道である。それでも一輪車を、上手な子のよどみなさで前進させ、これまで一度も倒すことなく四国を制覇しようとしているのがジョー・ジョニー・ジョーのすごいところだ。例えば香川でうどん屋に入った時も、車輪を撃ち続けることで回転させ、なんだかんだ一時間ちかくもくつろいだ。
「ジョー・ジョニー・ジョー、ジョー! ジョー・ジョニー・ジョー、ジョー!」
 熱狂的なリフレインをやめない子供たち。彼らに声をかけるどころか、一度も顔を向けることのないクールなジョー・ジョニー・ジョーだったが、どういうわけか時々、ペダルが撃たれて激しく空回りし、子供たちを喜ばせた。
「まっこと、憧れるきに!」
「ジョー・ジョニー・ジョーは、世界一の、殺し屋ぜよ! 一生着いていくきに!」
 ジョー・ジョニー・ジョーの内ポケットに入った手紙は、帰りのフェリー乗り場に着いた時、開けるよう指示されている。その手紙には「今すぐ振り向いて、全員殺せ」と書いてあるのだ。