読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

シャザザ

 秘密基地の前に立ったとき、ザリガニがたくさん集まった時に初めて出るにおいがしたので、腕白坊主たちはさっき雑木林の奥でしこたまハチにさされまくった顔を見合わせた。
 普段から一緒にいるのに自己紹介が必要なほどはれあがった顔では、誰が誰やら判別できないが、勇敢な一人の少年が、木を立てかけて作った扉に手をかけた。こいつはたぶん、さっきハチミツをとろうとした時、一番最初に飛び込んで、理科室から盗んできたビーカーを巣にゴリゴリ押しつけてた奴だろう。
 扉を取り払って中の様子を見て、少年は敵対心に満ちた口を強く結んだ。
 そこでは、中学生のザリガニたちが集まってカラムーチョを食べ騒いでいた。
 一拍遅れて一挙にただよってくる、ザリガニがたくさん集まった時に初めて出るにおい。カラムーチョをはさんだ小さなハサミが補足震えて動く音。目のくらむようなどす黒い赤。
「お前ら、今日からこの秘密基地は俺たちザリガニ上級生のものザリ! ご苦労だったザリな!」
 どれか言ったかわからないが、ザリガニの声が、上の方から降ってきた。バルタン星人がしゃべる仕組みと同じようだ。
「ずるいよ。この基地は、ぼくたち人間が春休み中かけて作ったんだよ」

「なにザリィ!?」
 ザリガニが一匹、秘密基地の中から出てきた。ブルブル震える子供たち。
 あの勇敢な少年の着こなした、たぶん夏休みにフジテレビ行ったときに買ったTシャツが、両ハサミにつかまれた。
「や、やめろ。ぼくの、どぜうもんTシャツ……!」
 胸に描かれたどぜうもんの絵がぴーんとなる。この横幅はまずい。
「や……」
 どぜうもんTシャツは、音を立てて裂けた。わーっと後ろに子供たちは目を覆った。
「お前らピーピーうるせえザリ! さっさとどっかいっちまうザリ!」
 子供たちは、泣きじゃくりながら、雑木林の道を歩いた。捨ててあった自転車の空気入れを見つけ、泣きながら順番に全力でシュコシュコさせることに心のままをぶつけてしまう子供たちであった。