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Baby You're A Rich Man

「ベイビー ヨーラ リッチマン ベイビー ヨーラ リッチマン ベイビー ヨーラ リッチマン トゥウ」
 中国でかっこいいホームレスが有名になる三か月前から、紀藤さんは駅前で歌っていたよ。錆びたギターをかき鳴らして、ボサボサに伸びて固まった髪の毛を口に入れて、紐につないだガリガリの雑種犬は動き回って、ブルーシートをステージに。
「ベイビー ヨーラ リッチマン ベイビー ヨーラ リッチマン ベ――」
 足元に置かれた缶からに、誰かが小銭を入れようとすると、歌が中断するよ。本当に入れたことを確認するまで、歌は再開されなくて、チャリンとお金が入ると、紀藤さんは少し声のボリュームを上げて、続きを歌う。
「ィビー ヨーラ リッチマン! トゥウ!」
 そこで雑種犬が嬉しそうにワンワン吠えるよ。缶からからチャリンと音がすると、後でソーセージがひとかけもらえるのを知っているんだ。
「ベイビー ヨーラ リッチマン ベイビー ヨーラ リッチマン ベイビー ヨーラ リッチマン トゥウ!」
 あとで、紀藤さんが歌っている歌はなんなんだとぼくは聞いたよ。
「ベイビー ヨーラ リッチマン」
「誰の歌?」
ビートルズ
「どういう意味?」
「ベイビー、お前は金持ち」
「なんでその歌ばっかし歌うの?」
 紀藤さんはこの前ニュースでやってた死んじゃったロックシンガーみたいな目でぼくをにらんだよ。雑種犬は、ぼくのミッシェルをにらんで吠えたよ。ミッシェルはうちの犬、イングリッシュ・コッカー、コッカー、なんとか。
「なんでその歌ばっかし歌うの?」
 紀藤さんは眉ひとつ動かず、凍った目つきにぼくを閉じ込めて、吐き捨てるように言ったよ。
「ベイビー、お前は金持ち」
「ふーん」
 そこで一万円札を渡したら、それから紀藤さんはぼくにヘーコラするようになったよ。でも犬はバカだからまだ吠える。紀藤さんはその横っ腹をグーで殴っていたよ、本気で。