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吉本新昔話

 外では大変だ。吹雪がびょうびょう鳴っている。
 男の話が終わったことがわかると、山姥は「うむう」と唸って出刃包丁を取り上げ、背中で自分の首筋をほぐすように叩いた。
「今の話は、自分で考えたのかい?」
 山姥が聞くと男は口をにんまりしならせて頷いた。
「あの……アナル? アナルの背中に火がついたところ、あれは最高だったよ」
「アナルやないですタヌキですよ! アナルと思って聞いてたんですか、どんな話なんですか!」
 山姥は不気味な顔をゆがませて機嫌よさそうに笑いながら、茶碗の裏で包丁を研いだ。
「アナルのリアクション、あれは最高だった。もう一度やってみてはくれないかい?」
「いやだからアナルじゃないですってあちち、あち、あち!あついあつい! あっついあっつ…死んじゃうだろ!」
 男は飛び上がって背中をまさぐる動きをしてから、頭を下げた。
「アナルの真似が上手いねえ」
「だからタヌキや言うてるでしょ! アナルが泥船つくったら単なるスカトロやないですか!」
 山姥は茶碗の裏で包丁を研ぐ手を止めた。そして下を向いたまま再び手を動かしたと思うと、低い声で言った。
「もうお休みになられるのがよろしいでしょう」
「すいません。スカトロがダメでした?」
 その夜、男は寝入ったところを山姥に首をちょん切られて殺された。男は山姥に、チョイ足しクッキングと言っていろいろ試しながら食われてしまった。
「パクリ野郎にちょい足ししておいしくなったランキング第一位は」
 山姥は急に横を向き、誰もいないそこに向かって言った。
「ごま油に決定だぞ〜?」
 夜も更けて、さびしく調味料の片付けをしていると、ひっきりない吹雪の中でどんどん、どんどんどん!誰かが戸を叩いた。さてはまた雪で立ち往生した者がいる。山姥はいける、二肺目いける、肺胞海ぶどう、と思い、
「こんな時間にどなたでしょうか」
 と弱々しい声を返した。
「ごめんくさい」
 ウソ……チャーリー浜? こんな、こんな山奥にチャーリー浜が来たんじゃ、と山姥は少し嬉しく思ったが、すぐに思い直した。こんなところにチャーリー浜が一人で来るだろうか。来ない。ということは、チャーリー浜の褌で新喜劇に出るクソ素人に違いない。山姥はまだ血のついた包丁を懐に入れて戸を開けた。
「ごめんくさい」
 寒さに震えてよたよた入ってきた男は、その仕草も含めてチャーリー浜に似ているような気がした。
「こらまたくさい」
 ただ、雪まみれになっていてよくわからないし、そもそも何歳なのか、だいたいチャーリー浜ってどんなだったか山姥は忘れかけていた。黒ぶちのメガネがよく似てる気がする。山姥はチャーリー浜なのかどうなのか決めかねて、とりあえず入れてやることにした。
 火に当たりながら聞いたところによると、なんのことはない、チャーリー浜ではなく、単なる弘前市民だという。さっき弘前市民会館で遠征してきた吉本新喜劇を見て爆笑、感動してチャーリー浜の出待ちをしていたら全然出てこずバスが無くなったので歩いて帰ろうとして迷い、気づくと吹雪の中で一メートル先も見えなくなり、それから一時間ちかく歩き回りやっとこのことでこの小屋にたどり着いたのだそうだ。
 山姥はいつものように頼んだ。
「なんかおもしろい話をしてくれないかい。お前発のおもしろい話だよ」
「オレ発の!?」
「そう自分で考えたやつだよ。人から聞いたりしたのはダメだよ」
「いいでしょう」
 男は自信満々で力強くうなずき、なぜか立ち上がった。声をかけようとしたが、なんともいえない落ち着いた様子に黙ってしまった山姥。男は入口まで颯爽と歩いて行き、戸を開けて、ぴしゃりと閉めて出て行ってしまった。もしや正体がバレたかと山姥が追いかけて食ってしまおうと入口に駆け寄ろうとすると、急に戸が開いた。男は連続で戸を開けたり閉めたりしながら言った。
「開けて〜閉めて〜開けて〜閉めて〜開けて〜閉めたら入れな〜い!」
 そして戸が開き、男が入ってきた。中に向かって歩いてきて立ち止まった。男はハイテンションで叫ぶ。
「ななめで来たよ〜、ななめで来たよ〜♪ フェッフェ〜、フェッフェ〜。まゆ毛ボーン!! ちちくりマンボ、ちちくりマンボ、ちちくりマンボでキュッ! ワァーオーゥ!ワァーオーゥ! 人魚〜、人魚〜、ハッ、人魚のおやじ〜! あばらが開いたらチュラチュチュチュ〜。 夏暑い〜冬寒い〜秋わから〜ん春マゲドーン! くるぶしさんからお手紙ついた そ〜れを読もうとしたけれど〜 くるぶしさんに〜返します〜。 弁慶!牛若丸!ピッピッピー、ピッピッピー、五条の橋の上、ピッピッピー、ピッピッピー、五条の橋の上。足痛い! 足痛い! 足痛い! ン〜ン シャチホコ!」
 とそこまできた時、山姥が後ろから男の首をちょん切った。まだ男の首が目を白黒させているうちに、老婆はその目の前にあるものを叩きつけた。

「あっ! しかもレーザーディスクのやつじゃん!」
 そう言って男は死んだ。自分でわざと白目を剥いて死んだ。山姥は話しかけた。
「話っつってんのに一発ギャグすんなや」