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色の話じゃない

 人それぞれに人それぞれの生きざまがあり、それを色になぞらえると千秋は黄色だと言っている。千秋に限らず、小さい頃から誰しも心に一つ抱く好きな色、それは既に人生のカーペットを染めているのだ。例えばランドセル。黒や赤の奴が当然いれば、空色の奴もいる、緑もいる紫もいる。入学式なのに傷だらけのランドセルを背負っている一年がいて節々で折れて繊維が丸出しだと思えば、あそこに立っている六年なんかまだ黄色いカバーをかけている。そうだよ、プーマのだよと誇らしげにショルダーをかけている四年生を登校時に見かけると、ランドセルあるあるの習得を放棄することの意味を考えさせられる。使っていないとわからないことがある。なんか掛ける用の横の金属とか。それが二十三歳の会話を五分間うるおすなんて、十歳やそこらでは想像がつかないだろう。俺はプーマのショルダーで通っていたんだというよりも、そっちの方がずっといい。これはほんとにずっといいのだ。そういえば、日本一の漫才師ダウンタウンの浜ちゃんは、ずた袋みたいなカバンで学校に通っていたらしい。もう色じゃねーじゃん!
 クリスマスの近づく頃、栃木県でもまた、色に魅せられた一人の少年がサンタに手紙を書いていた。
『ゼブラ柄の服を着てくるんだ』
 そうしたためる少年が腹ばいに寝っ転がっている絨毯はまさにゼブラ。少年はゼブラ柄が大好きだった。これも色じゃねー!
 視力がいいのでテーブルに座っていても手紙が見えてしまう両親は心配した。今日に限らず、ゼブラ柄が好きというのはなぜかヤンキーになるにおいがするので日頃から気が気ではなかった。
「よしお、服の色はいいんじゃないの」
「見ないでよ、お母さん、もう! やめてよ!」
 よしおは左の腕で視線をさえぎって楽しそうにわめいた。心配と裏腹によしおは素直で快活な子だった。クリスマスをたいそう楽しみにして、まだ11月だったのに楽しみにしすぎて過呼吸になり、スーパードクターKを読んでいて助かった。
 そんないい子がなぜサンタにタメ口を使うのか、父にはわからなかった。これが不良の始まりなのだろうか。ゼブラ柄が好きだからだろうか。
「よしお、いい子にしていないとサンタさんは来てくれないんだったな」
「うん!」
 よしおは元気に返事し、腕で遮ったままさらに手紙を書いた。書いているうちに腕が寝て用を失くし、父親はそれを読んだ。
『トナカイもゼブラ柄にしてこいと言ってるんだ』
「それじゃシマウマだ」
「お父さん、やめてよ!」よしおは大袈裟に手紙に覆いかぶさった。「ずるいよもう! ダメだって言ったじゃん! ちょっとちょっと!」
「よしお、サンタさんの色は変えられないんだ」
「なんでさ!」
「決まってるからだ。サンタは赤、そう決まってるんだよ」
「緑の見たことあるよ。本場っぽい緑のやつ、ニュースで!」
「赤か緑なんだ」
「裸でサーフィンしてたぞ! 僕は見た!」
「オーストラリアは夏だからいいんだ。日本のクリスマス、季節はいつだ。社会の勉強だ。冬だな。だから決まってるんだ」
「でも、だから手紙書いて頼んでるんだ!」
「サンタさんはあなたのところだけに来るんじゃないのよ。ほかの子はゼブラ柄で来られたらいやかもしれないでしょう」
「知らないよそんなの! 変えなきゃイヤだ。ゼブラ柄がいい!」よしおは目に涙をため、だんだん感極まってくるようだった。「服の色なんか、簡単に変えられるじゃないか! 着替えればいいんだ! スタートボタンで選択すればいいんだ〜! うわ〜ん!」
「サンタ スト2かよ!」
 突然、部屋の隅に置いてあるツッコミロボットが、肘から先の腕を水平に動かしながら声を出した。よしおはすぐに泣きやみ、「ツッコミマッシーンただすくん 〜さまぁ〜ず・三村のあやしいロボットつっこんじゃうのかよ!〜」を眺めた。買ってよかったと父親は思った。
 腕はゆっくりと元の位置に戻り始めた。よしおは涙を拭いながらなおもそれを見ていたが、腕が完全に戻ると、いくらか落ち着いた様子で、鼻をすすり、意味無く手紙をまっすぐに伸ばし始めた。
 その時、隣の部屋にいる犬のペレイラが吠え立て始めた。ツッコミロボットの声に反応して吠え出すのでいつも困っているのだ。
「犬うるせーよ!」
 ツッコミロボットがもう一度つっこむと、ペレイラはますます吠えた。しかしロボはそれきり黙った。今は省エネモードになっているので、よほど重要と判断されるつっこみどころでしか作動しないのだ。ツッコミの嵐モードにすると、ずっとつっこんでいるので肘部のモーターが凄く熱くなる上、自分で「肘あちーよ!」と叫ぶ。
 母親がペレイラのところに行ってしばらくすると、吠え声は聞こえなくなった。戻ってくるのを待ってから、よしおは再び、今度は母親に向かって口を開いた。
「じゃあ、じゃあさ。サンタは、うちに来る時だけ着替えればいいじゃん! ゼブラ柄のサンタの服にさ、着替えればいいじゃん!」
「そんな変な服、サンタさん持ってないわよ」
「うちで用意しとけばいいじゃん! そんで、サンタがうちで着替えればいいじゃん!」
「そんな服どこにあるのよ」
「売ってるよ! ドンキかなんかに売ってるよ!」
「そんな柄のドンキに売ってねーよいい加減にしろ どうもありがとうございました」
 よしおはまたしばらく、ツッコミロボットの上半身が起きるのを眺めていた。起ききると、ツッコミロボットの目の光が消えた。9時になると最後つっこんで自動で電源が切れるなんて、なんていい買い物をしたんだ、本当に買ってよかったと父親は思った。