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1億4000万年前の瞳

 原住民、強っ。東京で熊本ナンバーを乗り回すジャングル小林は、自分で「ファイッ」と言って1分も経っていないのにのっけから大ピンチに陥っていた。まだヒロイン小林が煮えたぎる大鍋(味噌汁)の上に縄でぶら下げられる準備が終わっていないのに、地面にうずくまって丸まり、一番でかい原住民に尻を亀でどつきまわされていた。
「おい頑張れよ!」
 二、三人ほどの原住民にああでもないこうでもないと縄を巻きつけられながらヒロイン小林が叫ぶ。夫婦の絆が口を悪くする。
 ジャングル小林はうずくまりながら尻に何か硬いものがガツンガツンぶつかってくる衝撃に耐えながら、逆境から這い上がろう、頑張ろうと、バナナで釘を打つ光景を思い出して自分を盛り上げていた。続いて、バラが粉々になる。
 その時、亀が慣れたのか、ガツンガツンぶつけられているにも関わらず、頭を出した。
「亀出ちゃったよおい!」
 ヒロイン小林が目を閉じ、顔をそっぽに向けながら怒鳴る。
 亀? まさかケツにぶつかっているのが亀とは夢にも思わないジャングル小林は、世界の神秘に触れた気がして、ドライアイスを素手でつかんでシンクに放り出すおばあちゃんの顔が脳裏に浮かぶ。流れ作業で、大橋先生の言葉を思い出した。
――つらい時は、ブラキオザウルスの交尾を思い浮かべてごらん。
 大橋先生……。下の名前なんだっけ……。
――想像してごらん、ザウルス系の交尾を。
 今なら、あの日の先生の言葉の意味を抱きしめられる気がする。先日上野の恐竜展に一人で行ってきた俺になら、先生の言葉の真意が俺の乳首を舐めてくれる気がする。むしろ少し噛んでいる。悪くない。
 ジャングル小林が2億年前に思いをめぐらせる中、亀が足された。両手で亀を持ったガテン系の原住民が、周りの細っこい原住民の「ッオーイッ、ッオーイッ」の掛け声に合わせて亀をガツンガツン、ジャングル小林の尻に打ち付ける。
 ヒロイン小林はしきりに「ちゃんと結べ。ちゃんと結べって」と縄を巻きつける原住民を叱りつける。「そんな押し込んだだけじゃ取れちゃうだろ! 包帯じゃねーんだから!」
 ジャングル小林の頭の中に戻ろう。すげえ。あんなに大きい体して、何を言うのかと思えばウオーンウオーンばっかり。恐竜たちよ、絶滅したとこ悪いけど力を貸してくれ。特におもしろい顔したやつ集まれ。ジャングル小林はザウルス系の交尾を想像した。一番大きなセイスモサウルスが歩くと地震が起きたというが、じゃあ交尾したらどうなってしまうんだ。ティラノサウルスがメスの背中を噛んでいるのが見える。わかる。すると、ジャングル小林はかなりいつの間にかに、俺は小林ザウルスなんじゃないか、と自分を見つめ直していた。ジャングルという文字が一直線の棒になってからザウルスに変わる教育テレビのやり方で自分探しの旅を終えた小林。「小林ザウルス」で予約録画、よろしく。
 小林ザウルスは急に立ち上がった。もうズボンは破れて、お尻が真っ赤になっていた。原住民がどよめく。真っ赤だからどよめいたのだ。
「あんた!」
 小林ザウルスはヒロイン小林の方を振り向いた。そしてひどく真面目な顔でのしのし歩き出す。あっエロいことする。日本人のことも恐竜のこともよく知らない原住民でもそれだけはわかった。