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『物理に強くなる』 関口知彦・鈴木みそ

マンガ 物理に強くなる―力学は野球よりやさしい (ブルーバックス)

マンガ 物理に強くなる―力学は野球よりやさしい (ブルーバックス)


 僕の高校時代といえば、理系に歯が立たない試験の日々でした。どうにもこうにもやる気がせず、数学と化学と物理のテストは、試験官の先生によってはカンニングしていました。一番前なのにやってました。物理のテストの時、隣の、それほど埋まっていない、でも自分よりは埋まってるHさんの解答を、なるへそな、なるへそな、と自分の解答にしながら、僕は、ここHさん計算ミスしてるな、と気づきました。そこだけ直して、先生にバレないように解答用紙をヤマカンの筆跡で汚しながら、あとはじっとしていました。後日、帰ってきたテストは25点でした。うちの学校で言えば、赤点ギリチョンセーフの点数で、ふとHさんの方を見ると、Hさんは座ったまま、卒業証書のように答案を持ち、僕の角度から言えばメガネを光らせながらそれを見つめ、後日、補習に参加していました。
 そんな僕が一念発起して、入門書に手を出しましたが、マンガです。これからの時代は、なんでもかんでもマンガで覚えていきたいと思っています。僕が何かを覚える時のやり方には僕なりのポリシーがありまして、それは「同じ事をとにかく色々なやり方で覚える」です。基本をそのどたまに手っ取り早くぶち込みたかったら、入門マンガの違う奴を3冊ぐらい読めばいいと思う。脳科学なんてよくわからないけど、すごく近似的な情報を集めて微調整して統合するというのが一番簡単だし記憶のやり方に沿っているんじゃないか! そうじゃないんか! と怒鳴り散らしながら茂木健一郎の筆箱を隠したい。
 このマンガでは、野球部のエースで4番が物理のテストがやばいということで、学校の天才帰国子女に物理を習うというライトな設定で、物理の世界への理解を深めていきます。他の人も出ます。他の人の一人が、エースで4番に思いを寄せる女の子です。天才帰国子女めぇ〜、という思いで参加してきたのですが、この子は頭がよく、授業のサポート役みたいなことをしています。で、その子と天才の子がこんなこと話してました。試しにやらせた筆記テストが全然だった時の、二人だけの会話です。

女の子
「だってテストをクリアするためにやってるんじゃないの! 最終的には受験があって……」


帰国子女
「?」
「わかるって面白いからだよ」
「公式の暗記なんてしたって全部忘れるから 時間のムダ」


女の子
「忘れたっていいのよ今を乗り切れば」


帰国子女
「今?」


「一生覚えていたくないの?」

 みんな仲間だと思いますが、ここで僕は最近ないぐらいジーンときてしまいました。
 文系は、世界という巨大なマトリョーシカを開けていき、これ以上開ける人形がないと見るや、あらゆる隙間に自分で人形を手作りして放り込んでいきました。一方、理系の人々は、このマトリョーシカを極限までどんどん開けていきました。そして、まだ開けようとし続けています。両者が生きているのは同じ世界だし、開けているのは元をただせば同じマトリョーシカです。最初は理系なんて文系なんてと内心で我が誇りにエサをやっていたものですが、今になってみると、これは明らかに、来るところまで来たら協力しなきゃ何にも進みません。作るために開けなければいけないし、開けるために作らなければならない。初心に帰って、理系の気持ちで世界を開いてみなければわからないこともあります。そしたら、かつての自分の指紋がついていたりして、ああ、これはこういうことだったのか、とわかったりするのが、世界を開け直したということです。それから毎日、その知識とともに世界と向き合うことになりますから、それは一生忘れない。世界は続くから、忘れる暇が無い。
 こういうことは、若かったかつての僕にも、若かったかつてのあなたにも、きっと若かった誰にも、わかっていませんでした。高校生の頃なんて、本当てんでなっちゃいませんでした。本当に理系のことは全然おもしろくなかったし、話はろくに聞いていなかったし、授業中は、マンガや今ブログで書いてるような話を友達とずっと、本当にずっと書いてた。それが一番すごくて、すばらしいものだと思っていた。
 でもそれは違くて、やっぱり、こういうことを知ることは楽しいです。でも、「知ることが楽しい」ということを知るために、やっぱり知らなくちゃいけないことが沢山あるということが難しい。これを読んで屁をこいてクソして寝るという奴もいると思います。だからこそ、ほとんどの場合というか性格の悪い奴の場合、文系が一番だ理系が神だという時期、我が誇りというニンジンをセルフサービスでぶら下げて突き進むという時期も通らざるを得ないだと思う。若い子は大変だから、大変な中で、一応どっちかにしぼって世界を開けていくのが精一杯だと思う。どっちかが後回しになるというのが、文系理系という問題で、それは後回しにされっぱなしかも知れない。大変だし多感だし、青春だし、扱いにくい若い子たち。理系文系もなんのことやらで青春やって扱いにくいような子だっているけど、そのへんはもう知らん! 政治が悪い! と言って、いつか政治を学んで脳に電気を走らせるわけです。そういうことなんです。
 とにかく、僕が言いたいのは、何かがわかることが面白ければ、そして面白いことを面白い面白いと突き詰めていたら、いつかは別のところでつながってくるはずだということです。これは本当だと思います。Hさん、俺は世界のことがちょっとわかりました。物理というのも、かなりとまでは言いませんが、結構楽しいようです。…なっ、おい聞いてんのか! おい! 赤点女!