『働くおっさん劇場』

働くおっさん劇場 [DVD]

働くおっさん劇場 [DVD]


 僕が、松本人志が関わっているものなら「サイボーグ魂」までビデオ録画していた頃、地球はもっと灰色をしていました。それでも少しずつ大人になりつつあった僕は、世の中には突然坊主にする笑いのカリスマがやる以外にもおもしろいものがひしめきあっていることになんとなく気付きましたが、じゃあそのおもしろいもののうちのどれだけを俺は見ることができんだよ、探しづらいよ、とケンカ腰で思い、荒れた生活を送っていました。周りの子たちは誰もおもしろいものを教えてくれないじゃねえか。ネットでオススメされてるおもしろ日記なんて、へりくだったキャラばっかりじゃねえか(当時)。ネット大喜利の人たちおもしろいじゃねえか。じゃあいいじゃねえか。でもそれだけじゃ足りないんだ。そしてある日、ある日というかほとんどサイボーグ魂と同時期、松本人志が何かやると聞いて起きだした早朝午前五時半、僕は次のステップに知らず知らず足をかけていたといいます。知らず知らずお父さんの革靴を履いていたといいます。
 世の中には、数え切れないほどのおっさんがいて、そのおっさんの数は日増しに増えているそうです。数年前までおっさんをバカにしていたのに、今はおっさんをやっています、という方が後を絶たず、世界的な問題となっています。それについて会議を重ねているのもおっさん達ですが、誰もツッコまないそうです。それぐらい沢山いるおっさんの中におもしろいおっさんが一定の割合で混じっているのは僕もそう思うことですが、僕たちはどちらかと言うと、クリエイティブにおもしろい、人生についてキラカードを持っているおっさんばかり目にし、時に尊敬し、亡くなればCDを買い、その死を悲しんだりしてきました。その一方、クリエイティブじゃないのにおもしろいおっさんは、日の目を見ずにどんどんハゲて、貯金を崩していったといいます。
 そのおっさん達に光をあてたのが早朝五時半の「働くおっさん人形」でした。そしてめいいっぱい光をあててあててあてきって、きり良くそれで終わらせたのが、二年前ぐらい夜にやってた「働くおっさん劇場」です。クリエイティブじゃないのにおもしろいおっさん達は、2クールの命を精一杯、あんまり自覚なさそうにおもしろく生きていて、その仮面のめくりあがり方に僕は感動しました。同時にちょっとむかつきました。ここには、からくりテレビではお目にかかれない素人のおっさんの現実の影が忍び込んでおり、そして当のおっさんたちはそれに気付きもしません。その影を背負いながら、別のおっさんの恋愛体験の話にものすごい卑屈な顔をしたり、みんなで2リットルの水を飲み干そうとしたり、それができなくて別のおっさんに意見したり、逆立ちができないので別の部屋にいる別のおっさんを勝手に呼んだり、おっさんの手作りスゴロクをおっさん四人でしたり、マジでつかみ合いのケンカをしたり。僕は何度も爆笑しながら、なぜか平和について考えていました。おっさん達の中にもあったであろう、おもしろければしょうがない、という言葉にならない深層心理が浮かび上がり、つたない平和の調べを奏でていたのです。これならいい。これならいいじゃない。とにかくみんな楽しそうで。ところが極めつけは真逆の展開になる。異分子のおっさんが登場してベールを脱ぐレギュラーおっさん同士の友情なのかなんなのか。取っ組み合いになったのを見ている福田さんのマジな表情に僕は正直泣きそうになりました。
 そういえば僕は、おっさんのこういう顔を、20年も生きてきて見たことがなかったことに気付きました。そして誰もがワンランク上を目指して、それでスリーランクぐらい下になってしまうのだろうということにも。どうしても野見さんを中心に話が回りますが、全おっさん全おっさんがよかったです。とにかく何度も爆笑したし、副音声の土田のスタンスは違うだろと思いました。