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包みこむように

 こうして向かい合うと、出会った頃を思い出す。あの頃のお前は、おろしたての粘土のようにいい女だった。肌はツルツルして、おだやかな直線とゆるやかなカーブが二十歳の青春を形作っていた。俺達は何度も、化粧品のCMのようなキスをした。
「そんなお前と、こうして巨大化し、敵として戦うことになるとはな!」
「うるさい!」お前は叫ぶ。
 プププププ。
 そして横に飛びすさりながら、顔のホクロを飛ばして攻撃してくる。俺は間一髪よける。悲しみにくれながら、少し駆け足になりながら、背中をそり返しながら。
「チィッ」
 お前は変わった。昔は舌打ちなんかしなかったし、ホクロも飛ばさなかった。巨大化もできなかった。しかし、人はみな変わる。お前と別れて俺もずいぶん変わったはずだ。
「今度は俺の番だ! ポコチンロケット 発射5秒前!」
 ププププププ。
 お前は慌ててホクロを飛ばすが、俺は全てを、胸につけた正義のバッジで受け止める。ニコチャンマークがホクロだらけになる。
「ロックオンばっちり! 発射GO!」


 そこでアップになる羽賀正義の顔。どこかから噴射音が響きわたる。そのあと、まぶしい青空をバックに宙を進む唐草模様の風呂敷の包みが映し出された。中にポコチンロケットが入っているのだ。風呂敷はチンチンを完璧に包みこみ、しっかり上で結ばれている。実写化に際して、ポコチンを飛ばす際はこうすることに決まったのだ。会議で決まったのだ。
 そんな風呂敷に包まれたチンチンが、まずまずのスピードで、やや波形の放物線を描きながら、正義の元カノ 相田弓子の元へ。相田弓子の情報は、全て正義のチンチンにインプットされている。


「お前の本気汁のにおいを どこまでも追いかけるぞ!」
「チィッ!」
 プププププ。
 お前はハンカチに向かって低い体勢からホクロを連射するが、どうにもならない。ホクロがハンカチにくっつくだけだ。むしろ無闇に刺激すれば、逆に俺のポコチンロケットが大きくなっていくだけ。連動している俺のキンタマも、刺激にともないヒクヒクする。
「ヒクヒクする!」
「くっ」
 お前の癖だけは、あの頃と何も変わっていない。慌てた時、頬をこわばらせる癖は。とどめだ!
「ゆけーーーー!!」


 しかし様子がおかしかった。
 ホワンホワンホワンホワン。
 ポコチンロケットは、いつまでも相田弓子のまわりを、近づいたり離れたり、マリオで言えばパタパタのような動きでうろうろ浮遊するばかり。確信の持てない警察犬のようだ。
 汗だらけの羽賀正義の顔が大写しになる。
「貴様まさか・・・」
 相田弓子は腕を組んでニヤリと笑う。
「濡れていないのか!?」


 俺と別れて三年。俺は実はそんなに変わっていないと思っていた。思い違いだった。やはりお前は変わったんだ。変えられたのか、自ら望んでそうなったのか。事情は色々あるだろう。むろん、俺に責める権利はない。お前を捨てたのはこの俺だから。ただ一つ言えることは、以前のお前は、あんなにラブジュースの多い女だったはずだ。
「大人しく…… ビショビショになれっ!」
「いやだね!」
 ププププププ。


 ホクロが画面を横切り、チンチンの入った風呂敷がふわふわ飛び回る中、テレビの前のちびっ子もこう思ったことだろう! この勝負、アイディア勝負になる!