半袖セレブ

 僕は手塚先生のマンガは図書室で全て読んでいる。くだらないB級雑誌で、次々に出される質問にイエスノーとつぶやくだけで自分にお薦めの手塚マンガがわかる目から鱗なコーナーがあった。
 僕は手塚マンガをすべからく読んでいる。少し挑戦的な気持ちで駆け抜ける僕の炭酸が抜けるのはまだまだ先のことだろう。
 正直なめていた。最初の質問を目で吸い込んだ僕は、いきなり、
「危ない!」
 と叫んでパワフルに目を閉じた。後頭部から今まで飲んだコーラが全部噴き出し、電気ヒモを揺らす。
 脳裏に浮かび上がるチラリと見えた質問には、僕の三つ目がとおっていれば、「手塚マンガでセンズリこいたことがある」と書いてあったはずだ。僕はあまりの下品さに、びっくりしてひっくりかえってドイン てなことになってしまう(かもね)。
 勇気を出して目を開き、手の甲で口元を拭き取りながら立ち上がると、冷静に、脳トレの成果を出すことに集中する。もちろん、マンガ史にその名を轟かせる手塚先生はエロいのも書いている。エロさにおいても、その鼻のでかさは轟いている。しかし、シャイな僕はイエスもノーもなく、口をつくのは「うんとじゃあ うんとじゃあ」という情けない言葉ばかり。もう一度目を閉じた。
 まぶたの裏ではイルカが湯水のごとく死んでいく。海のトリトンだ。ユダヤ人が関西弁を喋っている。ヘビを殺して食べればすむことだった。本当はくそつまらないのに、手塚先生だからという理由で少年時代に描いていたマンガを読む僕は、人間の努力や成長の美しい姿を目に焼き付けることで自分のケツをひっぱたいているにおいがする。カレーのにおいがする。
 ごぞんじ手塚先生は、生まれるシャケの数ぐらいたくさんマンガを描いた。立派に努力しながら、その努力に実がつく黄金パターンです。僕も努力しています。実はつきませんが、一生懸命がんばっています。ラブロマンスを机の隅にどかして、おやつ抜きで頑張っています。来たるべき僕は印税で生活し、クラッシックとジャズのレコードを交互に聴いているはずだ。22歳の今で400作近いのだから、死ぬ時には、死ぬ間際の脳にはくそつまらないこういう文章が残っているだろう。そしてだからその分、少しはおもしろくなっているはずだ。色々おもしろくなってるはずだ。
 時々僕はこのように、こんなセレブも半袖になる季節だというのに、目覚ましを落っことしたら単一電池まで飛び出した時の気分を書きたくなってしまいます。少し本当にそう思っていますが、別にすぐ忘れたりします。見た目は厳しい顔つきなのにアイポッドから「月火水木キン肉マン」が流れ、このまま中小企業で働いてお給料をもらって勇気を出して服を買ったりして暮らすのも悪くないなと思います。でもやっぱやだなと思います。大学に2時間かけて通っています。大学に2時間かけて通っています。階段の踊り場で五人ぐらいで喋っているキャンパスライフ達の横を斜めになってすり抜けながら、おもしろいことを考えていきたいと考えて少しだけ泣きそうになるのです。