愉快・痛快・怪物会議

 虫を殺す青白い光だけを頼りに怪物たちは話し合っていた。誰が憎き、セイント肌水マサルをやっつけに行くのか。はじめは立候補制だったのが、いつからか「推薦でもいいよ」となっていることが怪物サイドの苦戦を物語る。しかし、今日の会議の様子はちょいと違った。
「あいつは空手をやっている」
「違うよ。ボクシングをやってるんだ。トカちゃんのジムに入っていくのを見たよ」
「私のリサーチによると、肌水マサルは月曜日に空手を、水・金曜日にトカちゃんのジムでボクシングを習っています」
「なら、俺が行こう」
 バンテージを巻きつけながら力強く言い放ったのは怪物界の新顔、怪物・現役フライ級チャンピオン(減量中)である。
「奴がいくらボクシングジムに通いつめたところで、俺に比べればラーメン屋さんパンチみたいなもんよ」
 怪物・フライ級チャンピオン(減量中)はバンテージを鋭い牙でかみちぎると、口に残った方をむしゃむしゃ食べて、昼飯はいらないという顔をした。
 怪物たちの中でラーメン屋さんパンチの喩えがわかる者は、言ってくれるぜチャンプさんはと尊敬をこめて現役フライ級チャンピオン減量中を見つめた。上半身裸の男というのは、いつも何かやってくれそうな期待に満ちている。一方、「ラーメン屋さん?何を言ってるんだ」派の怪物は、現役フライ級チャンピオン減量中が少し強いと思って何も考えずに喋っていると思い、隣の人にわからないように尻から毒液を少し分泌した。小さな玉になって怪しく輝く毒は、なめると苦く、名ばかり管理職の味がした。
「今はもう、念力集中ビキビキドカーンの時代ではありません。閣下、ボクサーならば、肌水マサルを倒せるのではないでしょうか?」
 メガネをかけた怪物・腐りかけ狼バナナが、閣下におうかがいをたてた。ボクサーと言ってしまった。
 しかし、閣下、つまり怪物界のトップである怪物くんジュニアは、明らかに納得がいっていない様子であった。毒液が、ペロペロキャンディーをつたって床にポタポタ滴り落ちている。
 そして、怪物くんジュニアはめんどくさそうに首を振った。
 まさに怪物級の偉さである怪物くんジュニアである、そこにいる誰も反論することなどできない。当の怪物・現役フライ級チャンピオン減量中も、汗と血反吐と手抜きまみれの激しいトレーニングで培ったスピードでウィンドブレーカーを着ると、スニッカーズを食べ始めた。怪物たちの迫力満点の顔は俯きがちになり、場が緊張とスニッカーズの匂いに包まれた。
「キヒ……ヒッヒ………ここは閣下、私にいかせてくだせえ……」
 完璧なタイミングで隅っこから発言したのは怪物・不気味コウモリ男。しかし、怪物くんジュニアは顔をしかめてまたも首を振った。立ち上がりかけていたコウモリ男は黙って着席し、ほとんど何も書かれていないホワイトボードを難しい顔で見つめた。この顔はココリコ遠藤がよくやる。