地球最後の日

 棺桶の形をした超巨大宇宙船の中で、地球人たちが、ぎゅうぎゅう詰めになっていた。
 今、地球には、巨大隕石が四方向から迫ってきている。どれ一つとっても、地球を貫通する勢いをもった今宇宙で一番ノっている隕石であるというのがNASAの発表であった。
 そんなに沢山同時に来られては、「アルマゲドンの方法でやってみよう」と言う暇もなく、人類は東京タワーの電気をつけっぱなしにして、釣りキチ三平の実写化を途中で放り出して、宇宙船で宇宙へ逃げ出すのがやっとであった。
 船内の大ホールの中、衛星から送られた地球の様子が、パナソニックが親の敵のように薄型化した超巨大液晶テレビに映し出されると、それまでくっちゃべっていた地球人達は画面に釘付けになった。
「地球〜!地球〜!」
 感極まり、そう叫んでしまう人もいた。
 画面左上には、地球周辺の宇宙空間状況を表すレーダーがあり、大きめの青い点が中央に配置され、月を示す黄色い点のほか、点滅する赤い光が四方向に確認できる。問答無用であれが隕石だろう。
「隕石きてるぞ〜!地球〜!」
 地球は人の話を全然聞いておらず、今日も暢気にクルクル回って青かった。それでも地球人たちは故郷の惑星に声をかけ続ける。
「おい地球〜!」「聞いてんのか〜!」「無視か〜!」
 野次っている間にも赤い点は、少しずつ青い点に近づいてくる。人類はだんだんリアルな気持ちになってきて、モニターの地球をじっと見つめた。そして徐々に、絶対泣かないと思っていた卒業式の気持ちになっていった。
 その時、レーダーの隅っこから白い小さな点が現れたのに、ジャングルの奥地で暮らしていたアフリカの部族がいち早く気づいた。 わかんねーよ、というしかないような言葉を発しながら画面を指さす部族。
「何言ってんだうっせーぞ!」東南アジアの方から声が飛んだ。それから各国から野次が飛んだ。「わかんね−よ!」「木の汁で化粧してろ!」「芋虫で栄養取ってろ!」
 しかし。
「あー、ホントだーーー!」今の今まで野次に笑っていた勝俣州和が画面を指さして叫んだ。
 それとほぼ同時に、気を利かせたNASAがレーダーを大写しにすると、勝俣の言うとおり、というかアフリカの部族の言うとおり、白い点がある。そしてその点が、地球に近づいているように見えなくも無い。
 人類がざわめくと同時に、宇宙に四百機あるだけ散らばったロシアのスペースシャトルの一つがその場所をカメラで捉え、映像を送り込む。
 見渡す限り宇宙空間の映像だったが、かなり奥のそして下の方に、体をそりかえらせたウルトラマンがゆっくり横切っていこうとしているのが見えた。凄い歓声があがった。
 当然の流れで、小沢征爾指揮、全人類による合唱が始まった。




むねぇーに つけーてる マァークは流星ぇー
じまーんの ジェーットで てーきをうーつー
ひかりの国から ぼーくらのために
来ーたぞ わーれらーの ウルートーラーマーン


ジャジャージャ ジャジャージャ ジャジャージャ ジャジャージャ
パパパ パパパ パパパ パパパ パ ァ〜〜パ
ズンズンチャチャ ズンズンチャチャ ズンズンチャチャ ズンズンチャチャ手にーした




 その合唱が三番まで終わった頃、二億人ほど同時に叫んだ。
「おっせーよ!」
 ウルトラマンはさっきと同じ映像の下の方を、二センチほど進んだところだった。レーダーで言えば、びた一文進んでいない。三番まで歌ったのにまだこれとは遅すぎる。このまま行くと隕石に追いつけもしないし、むしろ遅れて着いたくせに地球の大爆発に巻き込まれるのではないか。
 同じく、おせーよ、と思ったスペースシャトルもしびれを切らせてウルトラマンに近づき始めたらしく、少しずつウルトラマンの姿が大きくなってきた。ウルトラマンが、遠くでこっちを振り向いたのがわかった。
「そんな場合じゃねーだろ!」「速くしろよバカヤロ〜!」「間に合わねえだろうがよウルトラマンさんよ〜!」「やる気あんのか〜!」
 さんざん言われているうちに、スペースシャトルは危険なほどウルトラマンに接近した。そしてこのままではぶつかるのではないかという時、ウルトラマンがまたシャトルを見やり、前に出していた手を顔のあたりに持ってきて両手を交差させた。地球人はスペシウム光線を出してしまうのかと思って一瞬ドキッとしたが、どうやらシャトルの接近にびびって手で防御しただけらしい。それに気づくと、罵声が飛んだ。
「腰抜け〜!」「シャトルにビビッてる場合かよお前よ〜!」「ボヤボヤしてねえで、一生懸命飛べよバカヤロウ!」「こんな時に力をセーブするとか考えるなよ!」
 シャトルが曲がり、速度を落としてウルトラマンに併走して飛び始めると、ウルトラマンはまた体勢を立て直して地球へ向かった。
「まったく先が思いやられるよ」
 しばらく黙って飛んで黙って見ていたが、あまりにも動きが無く、えづらも変わらないので、人々はいらついてきた。
「おい、一個じゃダメなんだぞバカヤロウ!」「四つあるんだからな、四つ!」「ノルマだぞ!」「ダメそうなら、とっとと仲間にも伝えろよ!」「ていうか、お前だけじゃ絶対無理だぞ!」「聞いてんのか!」「自分の力を過信するのがヒーローなら、誰にだって出来るんだよ!」「バカかお前は!」「もう死ねよ、お前は!」
 ウルトラマンはそこで急に、カメラの方に振り返った。
「お前が死ねっ!」
 宇宙の摂理を超えて伝わってきた非常に大きな怒声がスピーカーから響き渡ると、空き缶や食べ物が何千個も、どアップになったウルトラマンの顔に激突した。