ストップ地球温暖化アンド限りある資源を抱きしめてソイヤソイヤ

 子供達が、それぞれ精一杯のやり方で温暖化をストップさせて地球を守ろうよという、ストップ地球温暖化アンド限りある資源を抱きしめてソイヤソイヤフェスティバルが、町内の一番広いところで開催された。
「そして僕はマイ箸を握りしめ、夕日に向かって歩き出した。完」
 タキシードでパリッと決めたロン毛の小学五年は、そう言って原稿用紙を閉じた。カサリと乾いた音がマイクに吸い込まれた。こいつは、温暖化にまつわる感想文を書いていたと思いきや、途中から何やら物語になって、さっきまではホッキョクグマの暮らす場所がなくなってどうのこうのと言っていたのにいつの間にか大冒険しており、ヒュービンくんという魔法を使うペンギンも仲間になっていた。
 そのパフォーマンスに、拍手が沸き起こった。しかし、どうあれ、小学生が舞台の上で何かをすれば、とにかく拍手はもらえるのだ。小学生でロン毛だとしても、拍手はもらえるのである。万が一拍手が少ない場合は、
「ロン毛の須賀山君にもう一度、盛大な拍手をお願いします」
 と司会の人がフォローしてくれるので安心である。
 次に、メガネの、後ろ髪を伸ばされた子供が壇上に上がった。パッと見、秀才なのか、ヤンママに育てられたのかはっきりとしない。しかし、それを察して、後ろ髪メガネはマイクを通して言った。
「僕は、ヤンママに育てられながらも、学校の成績ではいつも一番をとってきました」
 両方だった。大きなざわめきとともに、教育問題がひっくり返された。後ろ髪メガネは、手を前に、みんな落ち着けっての動きを見せてから、続けた。
「そして、地球について考え続けてきました。その一つの回答が、既にみなさんが目にしている、コレです」
 後ろ髪メガネは、そのまま手を広げ、自分の服を見せるようなしぐさをした。なんや赤い模様の入った白いスーツのようなものを着ているが……いやちゃう、全然ちゃうやん。あれは……あれは……。
「僕は、百店満点の答案をつなげて、スーツを作りました。限りある資源を着こなしてこそのストップ地球温暖化。笑顔の地球を未来の子供たちのために」
 なっ、あいつ自分も子供のくせして未来の子供たちのことを。観客はそう思いながら、持っていたオペラグラスで後ろ髪メガネを見た。すると確かに、「たけしくん 2機  まことくん 96機」などと書いており、そこに大きく丸がつけられている。あれは算数のテストだろうか。たけしくんはもうすぐゲームオーバーではないか。
「綿100で出来た服を着ている以上、本当のストップ地球温暖化、限りある資源を抱きしめているとは言えないのじゃないのかな」
 後ろ髪メガネは言って、先ほど作文を読み上げたロン毛を指差した。そうした動作をするたびに、ガサガサと騒がしかったが、地球を守るためには、むしろもっとみんなガサガサするべきなのだろうなと観客は思い、気合を入れて拍手した。
「百点満点を自慢したいだけだろ!」
 ロン毛が叫ぶも、マイクを通さない声は拍手にかき消された。そして、M−1方式で採点が発表され、後ろ髪メガネはいきなり1位へと躍り出た。ロン毛は3位に下がり、もともと2位だったくせに隅っこの方で膝から崩れ落ちた。
 そして最後の小学生になった。しかし、もうみんな期待していなかった。あれほど盛り上がったのだから、これ以上は無理だ。むしろ気まずくなってしまう予感に、もう気まずくなりかけている。
 しかも、出てきた坊主頭の少年は、原稿用紙を一枚だけ持って、それをそのまま読むようだ。なんてしょぼいんだ、坊主。自主的におじけづき、逃げ出せ。逃げ出せ。しかし坊主頭は原稿用紙を開いて喋り始めた。
アメリカン・エキスプレスをアメックスと略す汚い大人達め、おはようございます。ストップ地球温暖化なんて、限りある資源なんて、そんなのは単に地球の問題です。暑かったら暑いし、足りなかったら足りないんだと思います。節約したからなんなんだと僕は思います。お金を節約する主婦のテレビをこの前見ましたが、六十分間ずっと貧乏くさかったです。CMを挟んで貧乏くさかったです。あのおばさんは単に、お金が無いから節約しているだけでした。だからそれは、お金の方の問題なのです。金持ちになるというのはそういうことじゃないと思います。僕達は資源の金持ちになりたいはずなのに、気温にクールな階級になりたいはずなのに、気付くと貧乏くさいことばかりしている。ちょいきついこと、ちょいめんどいことをあえてして、いい気分になっている。それは貧乏人が光熱費を極限まで節約してたまの外食をするのと一緒なのではないでしょうか。その下流の貧乏人が、中流階級になる日はくるんでしょうか。そういうことです。実際、金も資源も、あるならあるし、ないならないばかりです。だから、原油がなくても熱帯雨林がなくなっても、それは地球のことだから知らないし、しょうがないです。熱帯雨林がなくなって二酸化炭素が増えて暑くなっても、元から暑いところは暑いし、寒いところは寒いじゃないか。だからそれは全部、問題だとしても、地球の問題なんだと思います。そうなっちゃたらしょうがない。必死こいて遅らせているように見えたところで、無いもんは無いに戻ってくるのです。間をあけてチビチビ食べたところで、森永ダースは12粒しかないし、おっとっとは少ないのです。それなら、必死こく分、もっと楽しいことがあったのではないでしょうか。一つの可能性として、未来のために頭のいい科学者のたてている作戦があります。でも、僕は知りません。僕に理解できそうなら、誰か教えてください。最悪、わかりやすいマンガにして教えてください。それがないなら、僕のスタンスはこうです。割り箸? くれんならもらう。ビニール袋? 無料ならもらう。くれねえなら、もらわねえよ。バイオ燃料? 使えっつうなら使うよ。ガソリン高けりゃ電車で行けるとこに行くし、高くても必要ならレギュラー満タン現金でお願いします。庶民をなめるなよ。と、それが僕達のやり方なのです。それが僕達の地球の使い方なんです。あるもんでやってそして、人のせいにする。政治が悪いと今日も思ってます。政治が悪い。そして、夏休みにやってるテレビアニメのダイの大冒険は、話が終わる前に夏休みが終わる」
 そこで、原稿用紙は最初のほうで投げ捨てたままスラスラ淀みなく喋ってきた坊主頭は、ちょっと間をおいた。
「そゆこと」