ライバル偶然に相会う

 ウォーターサーバーにはランクの高い水が入っている。上部に取り付けた容器をスケルトンにし、何のありがたみもなかった水を見せつけるという逆転の発想。
 今日こそはやってやるぜ、今日こそはランクの高い水をさも家にあるかのように、飲む。ザ・私立エッセンシャルエッセンシャル大学の、通称カロリーオフ藤山カロリーオン!は、そう決意して待合室のベンチからケツを浮かせた。そして、なるべくゆっくりとウォーターサーバーへ歩いていく。まるで子供がスリッパをはいているかのような動きだが、スリッパははいてないし子供でもない。このゆっくりした動きの時間を利用して、ウォーターサーバーの仕組み、どこをどうしたら水が出てそれで紙コップはどこに捨てればいいのかを見極めるのだ。
 しかし、紙コップの場所を見つける前にウォーターサーバーにたどり着いてしまった。まずい、このままではアタフタしてしまう。アタフタしてしまうのはまずい。自分でアタフタしている分にはそれほどみっともなくは感じないが、アタフタしているのを後ろから、少し遠めから全体像で見られたら、それだけで内定は取り消しだ。でも大丈夫だ、ほかの客はいなかったし、就職も決まっていない。受付の人も今はどこかにいっている。だから大丈夫だ。カロリーオン!
 三十秒後、かなりアタフタはしたものの、カロリーオフ藤山カロリーオン!は水を得ていた。そして、ゆっくりと振り向き戻る。
 すると、そこには、そこというか、遠くの入り口のところに、一人の男が立っていた。
「ふふふ、お前がアタフタしているところ、少し遠くから見させてもらったぜ」
「お、お前は、名門マカロニグラタン大学のテンポアップテンポアップ斉藤!」
「たかだかミネラルウォーターをくむぐらいでアタフタしやがって、家で水道水で麦茶をつくっているのがバレバレだぜ。これで明日の試合は俺が勝ったようなものだな」
「くっ……ずっと見ていたのか。なんて性格が悪いんだ!」
「お前がウォーターサーバーのことを理解していく数十秒間、たっぷり見させてもらったぜ。もちろん、自分の受付はすませてな」
 確かに、受付のところに置いてあるカードを入れる透明のあのやつの中には既に診察券が入っていた。やることはやった上で楽しむことを思い切り楽しむ、この男、少年時代にいったいどんな夏休みを送ってきたというのか。
「音を立ててお前に気づかれないよう、受付の人が取る側から入れてやった」
 す、すげえ。カロリーオフ藤山カロリーオン!はその計画性とアタフタしているのを見られていた恥ずかしさに、汗をダラダラかき始めた。みるみるうちにTシャツには、もともとそういう模様だったみたいな濃淡のグラデーションが描かれ、よく見るとどう見ても汗だ。
 藤山は水を少しずつ飲みながら、自分の荷物の置いてある席へと戻った。内心、はやく戻りたかったのだ。立ててあったトートバッグがバランスを失って今にも倒れそうだったから。斉藤も少し離れた椅子に腰をおろした。
 さすがはライバル同士、決戦を明日に控えこんなところで出会ってしまって、すごい緊張感だ。お互い気になっているらしく、時々、視線がチラチラと行き交う。藤山はDSを取り出して一刻も早くダビスタをやりたいがバカにされそうでできなく、斉藤は『崖の上のポニョ』をもう見たことを自慢したいがきっかけがつかめないのだ。
 受付のお姉さんが戻ってきて、またどこかへ行った。その直後だった!
「ポーニョポーニョポニョ」
 斉藤が動いた! コンタクトレンズのお店の空気が張り詰める。いったい、レンズの管理がずさんなこの二人はどうなってしまうのか! またお店の人に怒られてしまうのか! そして、筆者が行っているコンタクトレンズ屋と隣接していた眼科がこの前行ったらなくなっていた! も、すーげめんどくせえよ。眼科がないと視力検査が出来ないのでレンズの度をかえる場合は柏店でとか、すーげめんどくせーよ。(レンズの管理は筆者はちゃんとしています)