僕のパチンコ屋イメージ

 まず、パチンコ屋の自動ドアが開くと、めちゃくちゃうるさいです。東京ドームのドアは開くと風が凄いけど、パチンコ屋のドアはめちゃくちゃうるさいです。そのため、上級パチンカーは耳の穴にパチンコ玉をつめて入店します。でも、素人は当然まだパチンコ玉を持っていないので、我慢して入ります。パチンコ玉は時々道端に落ちていますが、止めましょう。
 にぎやかな音にめげることなく入店すると、すぐにドアのところで待ち構えた店員が近寄ってきます。この人にお金を渡すと、パチンコ玉をくれます。初心者は無難に千円を払うことにしましょう。いきなり五千円ではパチンコをなめていると思われますし、五百円では反対になめられてしまいます。パチンコ屋に入り浸っている人は、毎度のことなので、何も言わずに黙って千円札や五千円札を渡しますが、初めての場合はきちんと、
「パチンコ玉をください」
 と言うべきです。初心者が黙って千円を渡すと、玉をくれず、渡した千円のこともすっとぼけられてしまいます。お金を渡すと、その人はポケットに渡した千円札をねじこんで、代わりに、シャツのポケットから一握り分の玉を出してくれます。両手で受け取ってください。片手で受け取ろうとすると、素人だと思われます。しかも、一玉でもこぼすとさらに千円取られるので気をつけましょう。パチンコは胴元が儲かるようにできています。
 玉を受け取ったら、こぼさないように、少し姿勢を低くしながら、席を探します。他の人とぶつからないようにしましょう。店員も、物凄いスピードで店内を駆け回っているので、気をつけてください。言い忘れていましたが、パチンコ屋に来るときは、手ぶらで来ることにしましょう。大抵の人は手ぶらで、しかもサンダルです。そうしないと玉が持ちにくいばかりか、気取っていると思われてしまいます。加えて、パチンコを趣味にしている人は生来が金に汚い上に手癖も悪く、手持ちのパチンコ玉が無くなると何をするかわからないところがあるので、荷物を持っていくと200%盗まれます。だから手ぶらで行き、なんなら俺も荷物があったら容赦なく置き引きしてやるんだという気概で望みましょう。
 席を探す際は、空いていると思っても慌てて座ってはいけません。タバコや小物が置いてあるかよく見ましょう。そうした小道具は、俺は今いないけどここの席をキープしていますよ、の合図なので、そこに座ってパチンコを始めると、帰ってきたヤンキーと300%ケンカになり、200%負けます。なので、完全に空いてる席を探しましょう。
 さて、「寿司屋の源さん」の席に座りました。712番台です。よさそうですね。そうしたら、両手のパチンコ玉をパチンコ台の下の玉を貯めておく場所に流し込みます。ザー、といういい音がします。これを聞くと、ああ、俺はパチンコに来たんだ、と思いますね。これでほぼ準備完了、パチンコスタンバイOKです。そしたら、スタートボタンを押して、すぐそばにあるインターホンに向かって、
「712番台、パチンコスタートします」
 と言いましょう。すると、すぐさま、
「712番台スタートです」
 みたいなアナウンスがパチンコ屋全体に鳴り響きます。パチンコする人はみな兄弟なので、全員に伝えるのです。いよいよ、パチンコ屋全体からの「さあ、あぶく銭を稼いでやろうぜ」という無言のメッセージを背中で感じながら、スタートします。パチンコ台の丸い持つところを右か左(たぶん右です)にひねると、そのひねりに応じた強さで、パチンコ玉がスポンスポン飛び出していきます。
 狙う場所は、真ん中にある画面のそばにある、パカパカ閉じたり開いたりする場所です。そこにパチンコ玉を入れると、画面のスロットみたいのが始まります。それが揃うと、当りです。玉が湯水のように出てきます。さらに、5とか7とか特別な絵柄で揃うと、凄くいいとされている状態になり、源さんも一味違う動きをするようになります。俗に言う、ジャンジャンバリバリ状態です。こうなった場合、是非、先ほどのマイクに向かって、
「712番台です。ジャンジャンバリバリ状態になりました」
 と言ってみてください。すると、
「712番台、ジャンジャンバリバリです」
 というアナウンスが入り、みんなに自慢できます。そうなると、もう手が付けられません。死ぬまで当り続けます。パチンコ玉も家の風呂がいっぱいになるほど出てきて、店員が四人ほど、大急ぎで透明な箱を持ってやってきます。次々と箱がいっぱいになり、足元に重ねて置くようになったら、勝ち組です。自分のパチンコ玉がすっからかんになった人々が周りに寄り集まって、なんとかおこぼれに預かろうと「凄いですね」「やりましたね」と褒めてきます。ハイエナです。少し分けてやれば、その玉でパチンコをするために散っていきます。少々投げつけるようにしても感謝してくるので、こりゃいいや、とおもしろがって投げつけましょう。
 しかし、そのまま調子に乗って続けると、400%、あれよあれよという間に玉の数が減っていきます。あそこで止めときゃよかったと思いますが、もう遅い。禍福はあざなえる縄の如し、こうなるともう死ぬまで当りません。さっきまでのツキが嘘のようです。背の低い顔のでかい店員が一人だけやって来て、何も言いませんがかなり怒った様子で、空になった箱をぶんどっていきます。周りの客も、ざまあみろ、という顔でこっちをチラチラ見始めます。このあたりで泣きが入ります。涙が自然とこぼれてきます。そして、ついに玉がつき果てると、もう座っている権利はありません。速やかにどかないと、ヒモつきの金だらいが頭上から落ちてきます。席を立ち、さっき玉を分け与えてあげた人達の中でその後ジャンジャンバリバリした人をどうにか見つけて、力なく笑いながらすり寄ると、さっき投げつけた倍の強さでパチンコ玉をもらうことができるかもしれません。そこまでお前にプライドがないのならもらってもかまいませんが、割と普通にケガをするので止めた方がよいでしょう。しかもその頃には、欲をかいて失敗したお前の噂は完全にパチンコ屋全体に広まり、通路を通る時、両側にいる他の客はパチンコ台の方を向いたまま体を斜めにして手を後ろにやり、大体の感じでグーで殴りつけてきます。いつまでもいると危険です。負け犬はパチンコ屋を出ましょう。
 調子に乗って続けなかった場合、とても便利な自動玉数え機に箱の中の全パチンコ玉をぶち込んで、その場で現金にできます。自動玉数え機がなかった昔は、ベテランのおばさん店員が勘でやっていましたが、今は正確な金額で換金されるので安心です。しかし、店を出てから、パチンコ店とつながりのあるヤクザに待ち伏せされて500%カツアゲされるので、まずパチンコなんてやらない方が懸命といえます。