国会議員お前ら全員後ろ向いて並べ

 ここが国会議事堂か。子供たちがみんなでまわして使う青いプラスチックバットを持った男は、国会議事堂前という駅に降り立つと、国会議事堂はまだ見えていないのにそう思った。むせ返る金のにおいとおじさんのスーツのにおい。駅を出て地上に出ると、行ったことがないのでわからないから勘で書いているが、国会議事堂がいきなり現れた。永田町には陰謀がうずまき、神保町には古本が売れ残っている。そう聞いている。おもしれえ。気合を入れなおしてやるぜ。よし、国会議員お前ら全員、後ろ向いて並べ。衆議院も参議院も自民も民主も関係ねえ。ケツバットだ。正義の味方、ケツバットマンの参上よ。
 ケツバットマンはほふく前進で国会議事堂に近づいていった。プラスチックバットが地面にすれてガリガリ音を立てた。おそらく門があって、そこにまず警備員が絶対いると思うが、その絶対いる警備員を、ケツバットマンクロノトリガーの最初の方で脱獄した時のやり方で気絶させた。そして、
「国家公務員気取りなんだろ!」
 倒れたところにケツバットをお見舞いした。お母さんからしたら難しい試験とおって国会議事堂の警備なんて仕事について自慢の息子かも知れないけど、あんな奴ら守る必要ねえよ。お前らが警備するから奴らはつけあがって着服するんだ。スポーツジムを作るんだ。それでみのさんが朝っぱらから怒ることになるんだ。もううんざりだ。
 そしてケツバットマンは、多分けっこう距離があると俺は思っている門から入り口までを一気に駆け抜けた。その際、「国民の生の声を聞け!」と叫ぶのも忘れない。
 入り口のガラスを突き破ろうと思ったが、多分、防弾ガラスにしていると思うので止めた。普通に入った。おそらくあるであろう受付におそらくいるはずの女が叫び声をあげた。しかし、ケツバットマンは無視した。なぜなら、どんなに鬼監督でも、女子マネージャーにケツバットはやらないから。
 すると、奥へと続く多分じゅうたんの敷いてある廊下に、きっと実在する女の叫び声に驚いて、こっちを振り返るハゲ頭が見えた。国会議事堂にいるハゲ頭は、かなりの高確率で国会議員なのだ。国会議員じゃないハゲはそっとしておいてやれ。ケツバットマンは右手でプラスチックバットを振り上げながら、そのハゲ頭へと向かっていった。
 ハゲ頭は慌てて逃げようとしたが、高齢なのでモタモタし、その隙にケツバットマンが首根っこを捕まえた。そして胸元を見た。これは多分というかそこにつけるものだろうから俺も自信を持って書くが、議員バッジがきらりと光った。
「俺達の税金で暮らしてるんだろ!」
 ケツバットマンは、そのまま壁に国会議員を押し付けた。国会議員は「ひいいい、助けて小沢さん!」と情けない声を出した。
「お前、民主党だろ!」ケツバットマンは叫んだ。「小沢さんって確か民主党だろ!」
 そして、ケツバットマンは国会議員を左手で壁に押し付け、押し付けておいて、それからバットを両手で握り、
「天下りしてんじゃねーよ!」
 思いきりケツバットした。国会議員は叫んで、床を転げまわった。
 ケツバットマンは、まず一匹、と舌なめずりしてまた走り出した。そうだ、天下りしてんじゃねーよ。よく知らねえけど、天下りしてんじゃねーよ。
 奥へ奥へとケツバットマンは走った。かなり長いと思われる廊下を、ケツバットマンは進んだ。きっと、奥の方に、会議するあのテレビで見るところがあるに違いない。すると、突然、国会議員にしては異常なほど体格のいい男が飛び出してきて、身構えた。SPか。しかし、議員バッジが胸元で光った。
「お前、参議院だろ!」
 ケツバットマンはプラスチックバットを思いきり振り下ろした。肩に直撃したが、そのがっしりした国会議員には全然効かなかった。逆に、その国会議員はケツバットマンの肩をつかんで、いとも簡単に投げ飛ばした。ケツバットマンは床に叩きつけられた。
「そんでプロレスラーだろ!」ケツバットマンは大声で嘆くように言った。「参議院で、そんでプロレスラーだろ!」
 プロレスラーの国会議員は、ケツバットマンを無理やり引き起こして、チョークスリーパーをかけた。
「お前、絶対、国会議員に向いてねーよ!」
 ケツバットマンはそう叫んだが、声にならなかった。薄れゆく意識の中で気付いたことには、なるほど、いつも一人はプロレスラーみたいなのが議員にいると思ったけど、なんで当選しちゃうんだよと思っていたけど、このためだったんだな。




※お勉強コーナー(もっと詳しくなりたければ「TVタックル」を毎週見よう!)


●国会議事堂:小学生の時に見学へ行くが、俺は休んだ。しかも仮病で休んだ。同じ年、マラソン大会も仮病で休んだ。でも児童会で書記を務めていた。へへへ。
●議員バッジ:国会議員になるともらえる。これが無いとあのテレビでやる会議するところに入れないらしい。なるべく失くさない方がいい。そのためには、普段から置いておく場所をしっかり、ここだ、と決めておくといい。今日のラッキーアイテムだと少しだけおもしろいかもしれないが、理屈っぽすぎると思う。
●小沢さん:小沢一郎
民主党自由民主党のライバル。そのくせ、名前が半分かぶっている。みんなそのことが喉に刺さった小骨のように引っかかっているので、自由民主党のことは自民党、自民党と略して呼んでいる。
●天下り:国会議員はあまり関係ないらしい。官僚が関係あるらしい。よくわからない。よくわからないながらも国民は憤りを感じている。ずるい。止めろ。誰しもそう思っているが、やっぱりよくわかっていない。
●参議院:芸能人がよく出馬する。受験のために人数や任期を覚えさせられるが、忘れている。もう一つ、衆議院というのもあってそっちの方がどうも優越しているらしいので、参議院は近くに衆議院がいないかよく確かめてから自慢した方がいい。というかそもそも自慢するのを止めろよ。
●プラスチックバット:プラスチックでできているバット。中には空気と砂利みたいな小石と野球選手になるんだという夢が入っている。真ん中へんに何か丸いシールが貼ってあるが、すぐはがれてくる。持つところには黒いビニールテープが巻いてあって、安上がりなのにとても握りやすい。
●ケツバット:バッドを思いきり振り、ケツにぶちあてる。厳しい野球部だけでなく、芸能人もバツゲームによく使う。俺の好きなバツゲームの一つ。
クロノトリガーの最初の方で脱獄した時のやり方:見つからないように後ろから近づいてコツンとやると、戦わずに敵を気絶させることができるので便利だ。兄が操作するのを横で見ていた俺はやったことがない。つよくてニューゲームだと、一発で倒せるのをおもしろがって使わないことが多い。
●チョークスリーパー:格闘技の技。プロレスでは禁止されている。とにかく後ろから首を絞める。苦しい。やる方は苦しくない。どうにかして、やる側の人間、もしくはその仲間でありたいものだと、最近はそればかり考えている。