ネギと家族

弟:ネギが好きでも嫌いでもない
母:弟はネギが食べられないと思っている
父:息子のネギの好き嫌いはどうでもいいと思っている
兄:とにかく自分を変えたい
ネギ:ネギ


母「今日はお鍋よ」(と蓋を開ける)
一同(のぞきこむ)
母(弟を見て)「あっ、ネギ入れちゃった」
弟「別にいいよ」
母「あれ? あんたネギ食べれたっけ?」
弟「大丈夫だよ」
母「大丈夫とかじゃなくて」
弟「平気だって」
母「ネギ嫌いだったでしょ」
弟「食べれるよ」
母「いや無理して食べなくていいけど」
弟「平気だってんのに。なんなら春菊の方が嫌いだよ」
母「春菊も入っちゃってるよ」
弟「だから言ったんだよ、春菊入ってるから言ったんだよ。見て言ったの」
母「でも、あんたネギ食べれなかったじゃない。前に怒ったじゃない」
父「息子のネギの好き嫌いはどうでもいいと思っている」
弟「でも今は食べれるし」
母「そうだっけ?」
弟「そうだっけって何だよ。今は食べれるって言ってんのに、そうだっけって何だよ。新情報だろ。もういいから食べようよ」
母「せっかく気を遣ってあげてんのに」
弟「はいはい」
母「何その言い方は!」
弟「なんだよ。ただ、ネギは食べれるから気を遣わなくていいって言ってんだよ」
父「息子のネギの好き嫌いはどうでもいいと思っている」
母「もうあんたは食べなくていい」
弟「は?」
母「あんたみたいなもんは食べなくていい」
弟「意味わかんねーし。いいよ、じゃあ。食わねえよ」
母「そんなに私の作ったものに文句あるなら、食べなくていい」
弟「文句言ってねえし。自分がネギでいちゃもんつけてきただけだろ」
兄「自分を変えたい」
父「息子のネギの好き嫌いはどうでもいいと思っている」
母「そんなにごちゃごちゃ言うなら、自分で好きなように作ればいいでしょ」
兄「とにかく自分を変えたい」
弟「そっちがネギのことでごちゃごちゃ言い出したんだろ」
父「息子のネギの好き嫌いはどうでもいいと思っている」
母「なんでごめんの一言が言えないの」
弟「はい?」
母「謝ったら済む話でしょ、こんなこと。なんでそうあんたは食い下がるの」
弟「知るかよ。なんだそれ。いいよ、こんなネギ入ったまずい鍋食いたくねえよ、どうだよ、これで満足なんだろ」
父「息子のネギの好き嫌いはどうでもいいと思っている」
兄「このままじゃまずいとは自分でも思っている」
母「そうやってすぐ逃げる!」
兄「いつもいつも逃げてきた」
弟「お前の方がおかしいんだよ、間違ってるんだよ」
兄「間違ってるのは社会の方だ」
母「わかったような口きいて」
兄「わかったような口きいてた」
弟「はいはい、俺が間違ってますよ。あんたが正しいですよ」
兄「俺が間違っていた。社会が正しかった」
母「お金はあげるから外で好きなもの食べてくれば! おいしいご飯食べてくればいいでしょ!」
兄「外に、まず外に出よう」
弟「いらねえよ、自分の金で食うよ」
母「さっさと行きな!」
弟「行くっつってんだろ。つうかお前みたいな意味不明のババアと暮らすのも、耐えらんねえよ」
母「じゃあ出て行けば、もう金輪際うちから出て行けば」
弟「言われなくてもそうします。今までどうもありがとうございました。はいさようなら」(と部屋を出て行く)
兄「今までどうもありがとうございました」
母「はいどういたしましてさようならァー!」(と叫ぶ)
父(黙々と食べている)
母(食べ始める)
兄「今年もよろしくお願いします」