カラータイマー

 三分経ってカラータイマーも鳴っているのに「もうちょい頑張れる!」と宣言することで延ばし延ばしに結局十分近く戦うのはヒーローとしてどうなんだと非難されたのに、ファイトマンには反省の色が見られなかった。
「お前らは時間制限なしで戦ってるじゃねえかよバカ!」ファイトマンは怪獣達の反対側の席で叫んだ。
「そりゃ、僕らが時間制限ありだったらファイトマンさんいる意味ないじゃないですかぁ」一匹がそう言うと、怪獣達はみな一様にうなずいた。
「それに、ファイトマンさんのカラータイマー、あれ、一定時間経つと消えるじゃないですか、あれはどうかと思いますよ。ファイトマンさん、消えたらもうそれで気にしなくなるんですもん」
 怪獣達は「そうだそうだ」と大きな声をあげた。
「あれは目覚まし時計の感じと一緒じゃねえかよ。ずっと鳴ってたらうるせぇだろバカ! 気が散んだろバカ!」
「て言うかだから、何度も言うようですけど、気が散ってそこでタイムアップ間近なんですよ。そこでもう決めなきゃってあせんないとダメなんです」
「うっせーバカ!」
 カン! カン!
 ファイトマンがミネラルウォーターのペットボトルを投げたその瞬間、宇宙裁判官が木槌を鳴らした。
「静粛に。判決を言い渡します」宇宙裁判官はそれから一拍置いて厳粛な調子で言った。「ファイトマンのカラータイマーにスヌーズ機能をつける!」
「勝手にしろバカ!」


 一週間後、一匹の怪獣は期待に胸膨らませて東京で暴れ始めた。
 そこへファイトマンがやってきた。
 一進一退の戦闘は白熱し、三分が経った。
 ピコン、ピコン。
 カラータイマーが時間を告げる。しかしファイトマンは戦い続ける。カラータイマーは一定時間経って消えた。問題はここからだ。
 ピコン、ピコン。
 スヌーズ機能が作動した。それでもファイトマンは帰る気が無い。
「ちょっと、ファイトマンさん鳴ってますって。二回目鳴ってますよ」取っ組み合いながら怪獣は小声で言った。
「大丈夫」ファイトマンも小声で返す。
 しかし、ファイトマンが満を持してはなった光線は怪獣にとって痒みすら起こらないぐらいの遠赤外線だったので、ファイトマンは、ゲームをやってる小学生がいい加減お風呂入りなさいと言われているような感じで「ラストもうワン光線だけ!」「ホントに最後!」と叫び、いつまでも戦うのだった。「今キリ悪いから!」