ドッキリ・アニマル・インタビュー(下)

 劣勢になったライオンさんがタテガミの中から凶器(くだものナイフ)を取り出してチンパンがカウントを取り始めた時、舞台袖から人間さんが手をたたきながら現れた。
「はい、一旦止めて。一旦止めてねー」
 動物達の動きが一瞬止まった。舞台手前まで勝負を見に来ていたサルたちは、エサがもらえると思って人間の周りに群がった。人間さんは小脇に抱えたポップコーンをばらまきながら、マイクを持った。
「なんかゴチャゴチャやってるけど、実際、君たちに何が出来るのかってのを考えてみたらどうかな。あるいは、何をしてきたのか」
 動物達は考えてみた。自分達はエサを食って、生きたり死んだりした。チンパンは、俺は木の枝をアリの巣につっこんだぞと誇らしげに考え、サルはイモを洗ったというとっておきのエピソードを思い出した。
「せいぜい、木の枝をつっこんだりした程度でしょ。あとは生まれて食って糞して寝て死んだだけでしょ。その点、俺、どうかな。俺が考えたの、ざっとあげてみようか。一部だけあげてみようか。まず、言葉ね。始めに言葉ありきなんて俺は考えていないけど、これね。まあ、この場合、君たちも使っちゃってるからそれは置いておくけど、あと、核兵器ね。今やってた喧嘩とか、馬鹿らしくならないかな。あと、発光ダイオードね。それにパソコンね。俺は凄いよ。その一方で、車や飛行機に飽き足らず、宇宙まで行ってるからね。スペースシャトルで。凄いよ宇宙は、だって空気無いし。そこに、カップラーメンもってくからね。これも俺ね。プルタブもティッシュの仕組みも俺、それをウェットにして筒に入れとく発想も、時計を小さくして腕に巻く発想も俺、それを可能にした技術も俺。で、そういう物質的なものだけじゃなく、俺は『モナ・リザ』とか『ひまわり』も描いてるし、便器に『泉』とか名づけて芸術にしちゃうし、フルオーケストラ用意して4分33秒黙っとくことで音楽を偶然性の元に問い直すよ。『ドン・キホーテ』やら『カラマーゾフの兄弟』やら『城』やら『ハックルベリー・フィンの冒険』やら『百年の孤独』なんかも書いたよ。『恋空』だって書いたよ。映画も撮るし。コメディからアクションから芸術から、何でも撮るよ。風刺もするよ。『A Day In The Life』も『TSUNAMI』も『Bohemian Rhapsody』も『ラブリー』も『Waterloo Sunset』も『Point』も『Anarchy In the U.K』も『ヨイトマケの唄』も『Babylon Sisters』も『リンゴ追分』も『Rawhide』も俺。涼宮ハルヒシリーズも全部俺。ドラえもんも俺、声も俺。ニコニコ動画も俺。あえて熱い風呂に入ってみんなを笑わせる芸だって俺が考えたよ。『ごっつええ感じ』も全部俺のアイディアだよ」
 動物達は、口々に「すげえ!」「やべえ!」「人間半端ねえ!」「天才を見た」と叫んだ。
「この先もまだまだ行くよ。限界なんて感じてないよ」
 スタジオの上の部屋にいたプロデューサーのオランウータンは一人冷たい目をモニターに向けていた。スイッチを入れて音声をスタジオに流れるようにすると、マイクに向かって喋った。
「調子乗ってるね」
 その時、番組スタッフ達がまず人間さんに飛び掛って体の毛をむしりました。それから、全員がむしりました。そういうことがあったので、人間さんの体毛は他の動物に比べてうんと少ないということです。


 筆者はここまで書いて思いついたのですが、インタビュアーをオランウータンにして、最後の偉い役職をチンパンジーにして、動物達が「DNAが一番人間に近いと言われているチンパンジーさんは、調子に乗ってると思われるから、わざとニコニコ動画を開発しなかったんだ」と納得して気持ちよく人間の毛をむしる。という流れにすればよかったですね。