ドッキリ・アニマル・インタビュー(中)

 次に登場したのは、トラさんである。観客のサルたちは互いに吠え、警戒をうながした。トラはとても怖いのである。しかし、司会のチンパンジーの職業意識も見上げたもの、小脇に肉を抱え、トラさんを迎え入れた。
――こんにちは。
「どうも」
――トラさんは、凄く強いですよね。
 トラさんは、黙ってチンパンジーをにらみつけた。サルたちは、あのエテ公死んだな、と自分を棚に上げて思った。
「あのさあ、じゃあ聞くけど、君は、この横にさあ、なんでもいいけど、例えばライオンがいたらさあ、そんなことぼくに言うかなあ」
 会場は一瞬静かになったが、パラパラと拍手が起こり始め、やがて、万雷といった風になった。サルどもは、いったん手を叩き始めると、どこか狂ったようにやるのである。多分、体の構造の問題だが、なぜか前を見ず、体をひねって上を向くのである。だから、誰もステージを見ていないのに、凄い音だった。トラさんはそれがおさまるのを待つ間、手をペロペロ舐めていた。
「言わないよねえ。じゃあさあ、それは、真理じゃないってことじゃないかなあ」
――すいませんでした。
 チンパンは椅子から降り、体を二つ折りにして言ったが、トラさんはそれを冷たい目で見ていた。サルたちは、自分が嫌われたわけではないのをいいことに、血が見られる、と沸いた。
「その態度はさあ、君さあ、気をつけた方がいいよ。だって、君と、あと別のチンパンと、ぼくが森で遭ったとしてみるとしなよ。ぼくは、そんな風になめた態度で謝ってくる方のチンパンジーを殺すよ」
 サルが全員立ち上がった。そうなったらじゃあ俺は絶対謝らないぞ、と決心していた。
 チンパンはブルブル震えだし、着ていたタキシードもストレスから脱いでしまった。チンパンは肉を差し出して、予定の時間よりだいぶ早くトラさんを帰してしまった。するはずの、トラの敷物についての話もしなかった。
 しかし、ゴリラのスケッチブックには、トラのとこに沢山バナナマークがついていた。それを見たリスザルは「これはお前、ゴリラ目線だろうがよ。腕力あるからってイキってんじゃねえぞ。私情を挟まずに、仕事をしろよ仕事を」と怒った。ゴリラは鼻の穴に腕を突っ込まれ、「なあ、おい、おい」グリグリされた。ゴリラは心の中で自分に一つバナナマークをつけた。
 次に登場するのはライオンであるが、サルたちは、先ほどの教訓をチンパンジー如きが生かすことが出来るのか、と注目していた。ライオンが現われて、サルたちはスタンディングオベーションで迎えた。
――タテガミがかっこいいですね。
「かっこいいよ」
――子供を崖の上から突き落とすのって、本当ですか?
「しねえよ。死んじゃうだろ」
――『ジャングル大帝』と『ライオンキング』の問題について、どう思いますか。
「そもそも『ジャングル大帝』が俺のパクりだ」
 サルたちはどっちの作品も知らなかったが、『ドンキーコング』と『クラッシュバンディクー』に置き換えてみることでなんとかした。なるほど、『クラッシュバンディクー』は『ドンキーコング』のパクりかも知れないが、『ドンキーコング』はサルのパクリなのだ。
 チンパンはそのあとも質問を続けたが、見る見るうちにライオンさんの機嫌が悪くなっていった。一つの質問につきお肉を一つ与えてみても、同じだった。
――狩りはメスの方がやられるということなんですが、
「おい」
――はい。
「なんださっきからてめえその質問は」
――はい。
「俺はライオンだろうが。百獣の王だろうが。」
――はい。
「じゃあ、そういう質問をしろよ。エサの取り方とか、どうでもいいだろ」
 調子のいいサルたちが沸いた。臨機応変にやれよ、臨機応変に、とチンパンを囃し立てた。
――申し訳ありませんでした。では、百獣の王として、他の動物をどうお考えですか。
「全員クズだ。特に、さっきの、トラ……タイガー。あいつはずっと調子に乗ってる」
 大胆な発言にサルがどよめいたその時、舞台袖、ちょうどライオンの後ろからトラさんがゆっくりと出てきた。もう帰るところだったのか、ウエストポーチを腰につけていた。サルは全員パニックになった。今度ばかりはボスザルもパニックになってしまい、入り乱れるサルに混じってあたりを駆け回った。
「あのシマシマ野郎は、干支に入ってるのを鼻にかけてインテリぶってやがる」
 ライオンさんは、モノマネの本人登場の時のようにしばらく気付かないで気持ちよく喋っていたが、サルのあまりの興奮ぶりを見て、ふいに振り向いた。
「百獣の王だなんて世間の風評を、本人が鵜呑みにしてるんじゃあ、困るなあ。ぼくは、ここでやってもいいんだよ」
 ライオンさんは、闘争心と牙をむき出しにした。
「望むところだ!」
 プロデューサーのサルは、機転を利かせて、ゴングのSEを流した。とても自然な流れで、チンパンジーが審判となって試合が始まった。