大外刈り

 必殺の大外刈りで、割と真面目に稽古を積んでいる男達を背中から叩きつけてしまうのが、大内だ。
 大内の大外刈りは、まさに大外から大内の右足が相手の右足めがけて内側に内側に飛んでいく。相手はその時、想定外だと思う。しかし、その想定外が大内の想定内なのであって、このとき大内は相手の考えの大外にいるのだ。相手は、大内の大外刈りに対してせめて相打ちを狙いに行くが、深遠な大外刈り哲学に裏打ちされた大内の大外刈りを止めることはできない。相手の意識はその瞬間にあっという間に大外に飛ばされてしまっているため、何が起こったかわからない。大内はそのうちに、内々に大外刈りをすましてしまう。
「ちょっと外走ってきます」大内は大外刈りを決めて、ソッと言う。
 大内はうちに帰る。道場の外に出て、外にいると思ったら五分後にはもう大内はうちの中にいる。大内のうちは道場と同じ町内にあり、道場の外を走り出せばたちまち大内のうちの外壁が見えてくるのだ。大内はそこで、うちで休んでこ、と思ってしまうのだ。うちの中は身内でいっぱいだ。大内の部屋の内側には内田有紀のポスターが貼ってあり、外側にはエアコンの室外機がある。