バックギャモン

 ほとんどの高校生がバックギャモンのルールがわからないのをいいことに「わいが西モロコシ学園のバックギャモン王や!」と調子に乗っていた竹野の天下もこれまでか、とみんなが思ったのは、転校生の藤巻君が自己紹介で「藤巻タカオです。趣味はバックギャモンです。インターネットで日々鍛えています」と発表した時だった。
 みんなはそれと同時に自己紹介でそんなことを言う藤巻君とは別に友達になりたくないと思ったけど、竹野も別に誰とも友達じゃない感じで浮いているからなんかよくわかんないけどちょうどいいかも知れないと思ったのだった。よくわかんないバックギャモン好き同士で潰し合いというかそういう感じになるのは見ている分には面白いと思ったのだった。
 というわけで、バックギャモン関係なく夏が過ぎ、秋が来た時、そういえばなんかお前らバックギャモンバックギャモン言ってたな、という感じで、文化祭の中庭ステージでのバックギャモン対決が強引に企画された。
バックギャモン対決が始まるってよ!」
「いよいよ西モロコシ学園のバックギャモン王が決まるってわけか!」
 バックギャモンと言いたいだけのみんなは中庭のステージ前に大集合した。巨大モニターにプレイ盤が映し出されるセッティングがなされている。おいおい、予算は平気なのかよ実行委員!
 いよいよゲーム開始。いきなり、バックギャモンてサイコロ使うんだ、という驚きがみんなに振りまかれた。でも、それからは何が起こっているのかよくわからなかった。ステージにあがっている実況役と解説役もルールを知らないので、「あ、なんか、なんかやった!」「今どうなった?」「どっち勝ってる? 今どっち勝ってんの?」としか言わなかった。みんなは画面を見つめながら、まあいいやとりあえず早く決まれ、と思っていた。とにかく一刻も早く「お前がバックギャモン王だ!」と叫びたかったのだ。
 しかし、時間が経つにつれて、みんなはルールを知らないボードゲームを見させられる退屈さに耐えられず、予想外にも、バックギャモンのルールを覚える努力をし始めた。そして事実、覚えてしまったのだ。それは、ここ日本では、将棋のルールを覚える十六倍意味が無いこととされている。チェスを覚える八倍意味がないこととされている。