守護霊をねじ伏せろ

 守護霊が見えて見えてしょうがないスピリット羽賀さんの元に、世界各国から守護霊を知りたくて知りたくてしょうがない人が金を持って訪れるのは自然なことだ。彼らと羽賀さんの間には、ギブアンドテイクの関係がある。
 羽賀さんのやり方は普通じゃない。普通なら、軽い自己紹介、軽食、悩み相談などのジャブを交わし、親睦的なムードになってから、じゃあ守護霊の方、となるのだ。そのぐらい守護霊というのはデリケートなのだ。いきなり守護霊の話をすると、守護霊の方が怒りだしてしまうのである。だって、お母さんに何かおねだりする時は、今日学校であった話から入るのがセオリーだろうが!
 でもそこで、いきなり守護霊の話をするのが羽賀さんだ。これは羽賀さんにしか出来ない荒業と言っていい。口で説明するより、現場を見てもらったほうがいいだろう。ちょうど、守護霊が知りたくて知りたくてしょうがない人がやってきた。
「今日はよろしくお願いします」
 黒いレースのカーテンをかきわけて、依頼人が入ってくる。
「うん、じゃあ、そこ座って。椅子の高さは下のレバーで調節できるようになってるから適当に、プロレスラーだね、15世紀のプロレスラーだ」
「え、何がですか?」
「君の守護霊がだね」
「僕の守護霊が、ですか?」
「うん、そう。かなり怒ってるね。プロレスラーかなり怒ってるよ」
「怒ってる?」
「うん、俺が、いきなり名指ししたからね、怒ってるよ」
「大丈夫なんですか」
「いや、大丈夫。いや! わかんねぇ。これ、わっかんねぇな」
「どういうプロレスラーの方なんですか」
「こいつはねぇ、かけ損ないのペディグリーが外れて頭から落ちて死んだんだよ。おいお前、そうだろ、ん、お、うるせえじゃねえよ! 本当のことだろうが! やんのかコラ!」
 羽賀さんはそう言いながら、自分の後ろにある黒い幕を取り去る。そこには、リングが用意されている。
「お前みてえな悪玉守護霊のクソは、リングあがれこら!」
 依頼人は襟をつかまれ、リングの下まで連れて行かれ、エプロンから投げ入れられる。スピリット羽賀さんも後を追ってリングに上がる。
 混乱している依頼人をリング中央まで引っ張って行き、羽賀さんは依頼人をかがませる。そして依頼人の頭の方に立ち、依頼人の両腕をとって自分の腕を肘のところでからませて固める。ダブルアームクラッチ。ここから、ここからだ、くるぞ!
「いくぞてめえコラ!」
 羽賀さんはそう叫ぶと同時に、後方へ飛んだ。
 依頼人の体が伸ばされ、空中で俯けになる。
 羽賀さんは膝から着地し、依頼人は受身がとれないまま顔から落ちた。
 羽賀さんは腕をとき、立ち上がる。そして両手をあげて叫ぶ。
「アイ・アム・ザ・ゲーム!」
 そしてしばらく恍惚の表情をしてから、羽賀さんは依頼人を起こす。
「これで守護霊は成仏的なことをしてあなたを守ってくれる善玉みたいなことになるはずだから心配しなくていいよ。五万円になります。カードも使えます」