ドッキリ・アニマル・インタビュー(上)

 一番調子に乗った動物をこらしめて大いに笑おう、そしていい年を迎えよう、という目的のもとATV(アニマルテレヴィジョン)が毎年企画して大晦日に放送されるドッキリは、それ自体巧妙ということもあるが、何よりやっぱり畜生なので毎回ドハデに引っかかってくれて楽しい。
 TVクルーは、チンパンジーとサルで構成された、動物界きっての知的精鋭たちである。フルーツが好物である。
 さて、今回は「年末に放送するインタビュー番組」ということで二十種の動物を代表する者に来てもらい、インタビューで一番調子に乗った奴の毛を全部むしってやろうというおもしろ企画である。去年も同じ企画だったが、誰も気付かなかった。
 まずは舞台袖から羊さんが登場した。客(全部サル)がやんややんやと手を叩いた。サルじゃないと拍手できないので、客はサル、が動物界のセオリーである。
 司会のチンパンが鷹揚な態度で羊さんを中央に迎え入れた。チンパンはソファに座り、その前にあるガラステーブルに置いてあった甘そうなジュースをひと口飲んだ。サルが沸いた。羊さんはそのまま立っていた。
 いよいよインタビューが始まった。
――あったかいですか?
「そうですね。あったかいです……ね」 
 アシスタントディレクターのゴリラが、調子乗りポイントを示すバナナマークを一つ、手持ちのスケッチブックに書き記した。
――メェーって鳴いてもらえますか?
「ちょっと、それはテレビなんで勘弁してもらえませんか」
――失礼しました。
「いや、いいんですよ」
――羊に生まれてよかったことってなんですか?
「なんかこう、体だけ毛に包まれているってことですかね。あの、冬に露天風呂に入ってると、頭だけ冷たくて気持ちいいじゃないですか」
――そばの雪持ってきて遊んだりする。
「いやそれは知らないけどさ。それは関係ないでしょ」
――温泉入ったことあるんですか?
「いや、ないけど、それはいいじゃん。それはさ」
 ゴリラのスケッチブックにはバナナマークが山ほどついたが、これは途中からバナナの方に夢中になって沢山書いてしまったのだった。ゴリラはその紙を凄い力で破りとり、上司に提出した。上司のリスザルは「こんなにあったのかよ」と言った。
 続いて、アリクイさん登場。
――アリクイさんが幸せな時ってなんですか?
「ペロペロペロペロ、アリを舐めてる時が一番幸せです」
――自分の形をどう思いますか?
「なんか変だと思います」
――この前、テレビ見てたら、やくみつるがあなたのことを何も見ないで上手に描いたので私は感心しました。
「それは、ぼくって言うか、やくみつるのことですよね」
 ゴリラのスケッチブックにバナナは書き足されなかった。しかし、律儀なゴリラは、白紙を破って上司に提出した。リスザルに「頭つかえよ」と言われた。ウホ? って聞き返したらどやされた。
 続いてはオウムさん。先ほどどっかの国の熱帯雨林から飛行機で着いたということで、時差ボケの影響かマンモス機嫌が悪いという情報が入った。スタッフに緊張が走った。歯茎むき出しでうろつきまわった。
 オウムさんが棒のついたカートに乗って登場した。舞台袖から押されて、ガーッという感じで走ってきたのを、チンパンジーが受け止めた。サルが沸いた。チンパンジーは満足げな顔を浮かべてソファに腰掛けた。
――なんか臭いイメージがあります。
「それはお前の意見だろ」
――世間的にも臭いというイメージがあります。
「ほんとかよ」
――いつもペットショップにいますよね。
「だからそれはお前の経験だろ」
――カゴに入ってないので、逃げないのかな、と心配になります。
「ペットショップにいる奴に聞けよ」
――とても長生きするそうですが、それを知ってどう思いましたか?
「百年生きるって聞かされた時は、正直ひいたよ」
――それは臭いことと関係があるかも知れない?
「知らねえよそれは。多分ねえよ。動物はだいたいくせえよ」
――その中でも、臭さには自信がある?
 そこで、オウムさんは怒ってしまい、足元の水入れをひっくり返した。そして、キェーと鳴いてマネージャーを呼び寄せた。マネージャーの加藤(人間)がカートを引いて出て行った。サルは混乱し、興奮し、席の上で飛んだり跳ねたりして、ふとしたことから喧嘩になって大騒ぎだったが、ボスザルが椅子の上に腕を組んで立ち上がり、後ろを向いて赤い尻を見せて「おい!」と叫んだらみんな慌てて席に戻った。
 ゴリラは迷ったが、インタビュアーのチンパンジーにバナナマークをつけた。リスザルが「お前もわかってきたじゃないか」と言って親指を立てた。

(続く)