第二のバンド

 「大寒鉄郎と小粒ファイブ」が演奏を終えると、ラーメンを食いに来たはずの客も、このままラーメンファンとしてブーイングをするのか、これはこれでいいと譲歩するのか決めかねた様子で立ち尽くしていた。
 しかし、そんな中、伝説のラーメンファン、通称、チャーシュー先輩が声をあげた。
「そんな歌はいいからラーメンでしょ」
 チャーシュー先輩の落ち着いた、ブクブク太って曇ったメガネが醸し出すどことなく冷めた雰囲気を見て、周囲のラーファン達は、そうだラーメンだ、という気持ちになった。同時に、近くでチャーシュー先輩を見れた僥倖をかみしめていた。
 チャーシュー先輩の周囲から巻き起こったラーメンコール、それが会場に広がるのも時間の問題だった。
 その瞬間、ステージの照明が消えた。そして、反対側に、別のステージが薄暗い照明で浮かびあがった。ラーメンコールはぴたりと止まった。
 そこにはロックバンドが、各々の楽器を持つか前に置くかして、全体的に長髪で痩せ型で立っていた。一人おっさんがいた。
「We're the Babah's Hand Towels」
 ボーカルがマイクに口を近づけて小声で囁くと、演奏が始まった。




「We're the Babah's Hand Towels」
              作詞/JOH
              作曲・編曲/ババアのハンドタオルズ


Here we come
Walkin' down Yasukuni Street
See how we walk
And everyone is stargazer


We're the Babah's Hand Towels
On Bass JOH is bilingual, bilingual
He speaks fluent English
On earth, he's the greatest straggler,straggler
Though he never feels lonely


We're the Babah's Hand Towels
On drums YO☆SSAN is 40 years, years old
He has water on the knee
On with the show, warm up, warm up
Don't let it get you down


All the troubled world around us
Seems an eternity away
Feel so good (so do I!)


We're the Babah's Hand Towels
On Guitar KEN can't play the guitar, guitar
But he is so cool and beautiful
On balance, he's absolutely essential, essential
(No problem!) We get in good with him


We're the Babah's Hand Towels
On vocal SHINICHIRO is croaker, croaker
Since that rainy Monday
As a result, we got our music, music
Life goes on, que sera sera, all right


When you look sorrowful and forloan
You must look back,
Just over your shoulder
We are standing there


Although we get nothing to say
We present you a piece of music
We're the Babah's Hand Towels




 客はリスニングが全然できなかったが、なんとなくかっこいいと思って、こちらは何人か拍手した。
 すると、「大寒鉄郎と小粒ファイブ」がいるステージの照明もつけられ、二つのバンドが対面した。ずいぶん金がかかっている。
 挟まれたラーファン達がとまどっていると、中央に設置されていた巨大モニターがふいに点き、高そうなソファに座って、立派な角を持つ生きたシカを撫でている社長が映し出された。
「こんにちは諸君、俺が社長ミュージックの社長をしている、社長だ」
 社長はシカの首のところを腕で押さえ込んで無理やり頭を撫でていたが、シカの方は頭が下がったかなり無理な体勢なので足を突っ張って暴れ始めた。社長は二十秒ほど頑張っていたが、やがて角が本格的に危なくなってきたので手を離すと、シカは後ろ足を振り上げながら凄いスピードでフレームアウトした。
「シカが逃げた。今回のこの催しは、ご覧の通りこの二つのバンドを売り出すために開催されたもので、ラーメンは出ない。しかし、これからビッグになっていくバンドの誕生に立ち会えたことと、駅前にラーメン屋何個かあるから、それでチャラにしていただきたいと思っている。ついては、帰ったらお前らの持っているラーメンブログや、ラーメンmixiなどで、今日のことについて書いたらいいと思う」
 ラーファンがざわざわした。
「さて、お互いのバンドも、今日、相手がいることは知らされていなかったので、驚いていることと思う。これからは、お前らが競争するという形を取って、戦略的なプロデュースをしていくつもりでいる。お前らは、第二のポケットビスケッツブラックビスケッツだ」
 ババアのハンドタオルズの面々は顔もろくにあげずにクールに振舞っていたが、逆のステージ上にいる大寒鉄郎は、手塚治虫のマンガ顔でわかりやすく驚いており、それはマンガ記号論を鮮やかに思い起こさせた。
「そこでまず最初の勝負、ラーメンにしか興味が無いラーメンファンをより多くひきつけた方の勝ち、対決だ! なお、この模様はインターネットテレビで放送されるから、せいぜい頑張れよ!」
 会場が明るくなった。ラーメンファンの多くもなんだかおもしろいことになってきたと思っていたが、まだ全員鼻栓をしていたので、ハァハァうるさかった。