どんな粒でもまとめてデビュー

 社長は大きな黒壇の机を前に、かなりふかふかで黒々と光った背もたれが異様に高い椅子に座っていた。背後は全面強化ガラスの窓になっており、ドーナツ化現象の一番味がないところを一望できる。ここは社長が社長を務める音楽レーベル、その名も「社長ミュージック」、その社長室である。
 部屋に入ってきたばかりのオーディション通過者の五人に冷たい一瞥をくれると、社長は椅子をくるりと回転させて後ろ、窓の方を向いた。
「どいつもこいつも小粒ばっかりだな!」社長は大きな声を出した。
 そして立ち上がり、ポケットの中に入っていた小豆を取り出すと、窓ガラスに貼ってあったオーディションのポスターに向かって思い切り投げつけた。社長はまたゆっくりと振り向いた。
「こっちもしょうがないから何人か合格させるが、いくら粒ぞろいったって小粒じゃあ……」
 社長は葉巻を取り出し、乱暴に先端を噛みちぎってから火をつけた。それを、いくらかふかしてから、机の上にあったノートパソコンのキーボードの上に置き、ゆっくりと蓋を閉めた。やがて煙が漏れ出し、パソコンが故障している感じになった。
「お前ら、今日から『小粒ちゃんズ』な」社長は言った。
「ちょっと待ってください。ぼくは、小粒でもぴりりと辛いつもりです」勇気ある一人の若者が言った。
「そのことわざ、『ぴりり』っていうとこが胡散臭いんだよ」と社長は言った。「ふざけてるだろ」
 社長はそう言うと、机の引き出しを開けて文庫本を取り出し、栞にするための紐を引きちぎった。
「ブックオフの百円コーナーで買う文庫本はな、大体ここがこうやって、切れてるんだよ。お前らみたいによ」社長は紐をつまんで見せた。「お前らは五人が五人、そういう、どこか足りないのに一丁前のツラしてる、百円コーナーの文庫本と同じ半端野郎なんだよ」
 メンバーが侮辱に耐え切れない動向を見せ始めたその時、部長が入ってきた。
「社長、遅れていた一人が今来ました」部長は言った。「申し訳ありません」
「通せ」
 すると、やたら先端の尖った靴がカーペットを踏みしめるのがまず見えた。そして、ピンク色のタイツに、ローラースケートとかやる時の膝あてがつけられているのが見え、また一歩足が踏み出されると、その姿がすっかり確認できた。上半身はモスグリーンのとっくりセーターに包まれ、左上には黄色のキャプテンマークがきらめいていた。髪型は今朝起きた時のままそのアシンメトリーさを保ち、黒縁メガネをかけ、その顔はまさに、手塚治虫がマンガに出てくる時の顔そのままだった。にやりと笑っていた。
 社長はそれを見ると、ポケットから大豆を取り出し、口に入れてボリボリと食べた。
「きたね、大粒がきた」社長は言った。
「遅れました」遅れてきた手塚治虫が言った。
「そう、大物は決して謝らない。いいね。で、大粒なのはわかったが、君は、あれか、ぴりりと辛いかね」
 手塚治虫のマンガ顔の男はメガネを光らせて歩み寄った。そして、社長の横で立ち止まった。
「ぴりり、なんて甘いもんじゃありませんよ」
 社長は机の上にあったホッチキスを掲げ、空中で空打ちした。芯がパラパラと床に落ちた。
「大寒鉄郎と小粒ファイブ、十一月にデビューしてもらおうじゃないか」