くのいち

 ハートの形をした手裏剣を連続で投げては偉くて悪い奴をぶっ殺すユミコの格好はかなりきわどい。アニメ化するなら深夜になるだろうと思う。
 今日もまたユミコは上からの命令で、天守閣の屋根瓦にへばりついていた。もちろんユミコとしても、こんなつらいことは出来るならしたくないが、お給料をもらっているから仕方なくへばりつくのだ。
 かと言って、へばりついているだけではどうにもならないので、ユミコは天井裏に侵入する。忍者というのは、屋根瓦の上にいたかと思うと、次の瞬間には、当たり前のような顔をして天井裏にいるので油断がならない。
 テレビなどのイメージから天井裏はかなり歩きやすいと思われているが、実はそうでもない。埃が凄い。だからユミコはダイソンの強力な掃除機を持って前進する。凄い音を響かせて、段差にひっかけながら、ガチャガチャさせながら前進する。
 その瞬間、あのバカ殿などの忍者コントでおなじみの長い槍が天井を突き破り、ダイソンの掃除機に突き刺さった。ダイソンの掃除機はなんか企業的に売りにしている何かしら分離させる部分を一発で破壊された。このように殿様が頭上の忍者を狙う場合、テレビでは槍を突いているのが志村けんなら天井裏にいるのも志村けんなので暢気なものだが、実際にやられると、忍者的にはかなり引いてしまう。
「やばい!ばれたわ!」ユミコは叫んだ。
 しかし百戦錬磨のニンニン娘、ユミコはすぐに体を返し、次の一撃に備えて移動する。しかし、大騒ぎになっている下では、槍を持った大人が沢山集まってきており、みんな上を向いて、口を開けて、あっちだこっちだ、俺ここいってみる、となんだか楽しそうだったが、かなりまずい状況だ。
「ストップストップ!」ユミコは観念して言った。
 下がざわざわした。
「手裏剣とシュリンプって似てる。だから私はエビが好き。くのいち第一女塾筆頭、走水ユミコ!」
 自分で考えたキャッチフレーズの中でもまずまず気に入っているものを言ってから、ユミコは天井を蹴り破って畳の上に降り立った。天井に大きな穴が開いたので、槍を持った男達は、あーあー、みたいな声を出した。
「あんた達、槍でズボズボやってたじゃないのよ」
「自分ちだからいいだろ!」殿様が言った。
 みんな、殿様の、自分ち、という言い方がなんだかおもしろく思われたので、ちょっとヘラヘラしてしまった。その隙に、ユミコは自分の周りの2m四方にマキビシを多すぎるぐらいにまいていた。凄い早技だ。
「あ! やべーこれ、近づけないよ!」いち早く気付いた誰かが言った。
「持ってるやつ全部まいただろ!」
「お前のまわり真っ黒じゃねえか!」
 ユミコは山になったマキビシを平らにするよう、男達の方にならしていく。
「うふふ、人呼んで、真っ黒くのいち出ておいで、のユミコをなめてもらっちゃ困るわ。かと言って、ばれてしまっては忍者だもの、グズグズなんてしていられない。ここいらでドロンさせてもらいます!」
 不敵に笑っていたと思いきや、ユミコの姿はいつの間にか、いっこく堂が主力として使っているあの男の人形にすり変わっていた。
 その不思議にみんなは呆気にとられたが、やがてそれがいっこく堂の人形であることに気付いた。そして、マキビシに隔てられたところから眺めながら「本物?」と口々に言いあった。
「あれ本物?」