サバンナの掟

 学校でスナック菓子を開けると寄ってくるクラスメイト達の目、あの時の目だった。
 俺は夜のサバンナにいた。夜のサバンナはとても危険。どれぐらい危険かというと、およそ二十ヶ国語で「危険」という意味の言葉が書かれてある看板をさげる必要がある。
 そんな危険をかえりみず、ゾウとサイが見たかった俺はキリンも見たかったので、サバンナに飛行機でアフリカのかなり真ん中へんまでやって来た。ライオンだって見たかった。しかし、広大な野原を歩けども歩けどもヌーにばっかり会うので、俺は、
「もういいよヌーは!」
 と日本では子供とスポーツ選手しか出せないような大きな声を出した。ヌーはまったく動じず、相変わらず草を食っていた。群れていた。
 そしてヌーだけ見て夜になった。
 ドラえもんで得た知識を頼りに、焚き火をしながら夜を明かすことにした。日本から持ってきた食べ物を頬張りながら、俺は火をたやさぬよう気をつけていた。木が爆ぜる音が断続的に起こり、すぐに外の闇に消えていった。
 今日テレビ何やってんだろ、と日本を思い始めたその時だった。それまで静寂に包まれていたサバンナはやはり静寂のままだったが、二つ一組の小さな光が点々と俺を取り囲んでいたのだ。お箸に喩えるなら、八膳ほどあった。
 学校でスナック菓子を開けると寄ってくるクラスメイト達の目、あの時の目だった。
「ハイエナどもが」
 と俺は聞こえないように言ったが、内心、ひえー! という感じだった。しかし、
「ひえー!」
 と実際に言うのはとても格好悪いので我慢しようと思ったのだ。でも、今言ってしまったので残念だ。サバンナは怖いところ。
 黄色く光る目玉は数を増やしながら、少しずつ近づいてきた。俺は火の後ろに回りこんで炎を動かしてみたが、ドラえもんはウソをついたらしかった。
 もう目玉だけでなく、汚らしい毛も、恐ろしい牙も、そこから光にきらめく赤い線となって落ちていく涎もはっきりと見えた。ハイエナどもはもう近づけないほどまで近づいてきたが、よわい炎の光は最後の一匹まで照らすことはできなかった。
 ボスらしき大きいのが威嚇するように喉を鳴らし、
「うまそうなキャベツ太郎、食ってるな」
 と言った。
「みんなで食べようぜ、仲良くな」
 学生時代の思い出がここサバンナで甦ってきた。俺は十年前と同じく、持って来なきゃよかった、と思ったが、そんなこと口に出せるはず無いので、
「おう、いいぜ」
 と余裕の笑顔を見せた。すぐに汚いメスががっつきだした。