アクティヴな若者のための飲み物

 ドクターペッパーを飲まない人は、自分のアーティステイックな可能性に気付く出会いを自ら放棄している。それは、ドクターペッパーのおいしさを知らないうちにドクターペッパーに見切りをつける際の「あーあーあー飲まないうちから」感と非常に似通ったものである。というのも、ドクターペッパーの缶のデザインはとても芸術的なのだ。
 日本での販売を委託されている日本コカコーラ社ホームページのドクターペッパーの項には、それに関して、「ポップで楽しい独自の世界観を打ち出したパッケージデザインが、個性的で自由闊達な若い世代にはぴったりです。」と当を得た記述をしている。その芯の通った理念はデザインの微調整にも変わることがない。ちなみに現在は、今井トゥーンズというユニークな名前のデザイナーが手がけた高性能アンドロイド三姉妹が描かれている。
 思い出す。俺がまだ個性的で自由闊達な若い世代真っ盛りだった頃、昼食はドクターペッパーかコカコーラだった。弁当も無かった。炭酸飲料一本で学生生活を乗り切るという多少の無茶をすることで、俺は、自分の中の個性、独自の世界観、不健康な俺、を打ち出していくことに成功し、同時に親からもらった小銭を浮かせたのだ。その頃みんなは、食券を買ったり、弁当を食ったり、売店でパンを万引きしたりしていた。
 ドクターペッパーの23種類とされる原料は未だに公開されず謎に包まれているが、それは俺自身もそうだと、包まれているぞと思っている。かなりドクターペッパー側の目線からものを語ることができる俺は、発売から100年以上経った今も孤高の磁場に立ち、飲料業界の異端児たり続けるあのクリムゾンレッドのボディ、あのツヤ消し感を魂に宿らせて謎めいている。その謎めきは、日本人なのに血液型不明の奴と同じぐらい謎めいている。調べろ。
 こうしたドクターペッパーを好きな奴もドクターペッパイズムを継承しているという仮説が信じらない人もいるかと思うが、『フォレスト・ガンプ』で主人公ガンプがホワイトハウスでぐびぐびドクターペッパーを飲んでいたという事実がすでに証明しているのだ。
 ドクターペッパーに文句など無いが、希望を言うとすれば、1.5リットルペットは発売しないのですか、ということだ。しかし、これは何か特別な理由があるに違いない。
 最後まで読んでくれた人のために豆知識を一つ、商品名の由来は開発者が働いていたドラッグストアのオーナーをしていた博士の名前から!


 追伸
 ちなみにこの文章に書いてあるほとんどのことはウィキペディアに書いてある。しかし、俺のドクターペッパー愛は少しも書かれていない。それは今もなお、俺が個性的で自由闊達な若い世代だからである。つまり、そんなことをウィキペディアに書けば、たちまち削除されてしまうのだ。