ゴリラハンター

 核戦争が盛り上がりを見せ、大体の人間が死んだ。しかしゴリラは大体生きていた。
 冷たく重い瓦礫が脈打ち、アリに砂をかけた時の状態になっているまさにそこ、そこからゴリラハンターは誕生した。暗い空を見上げ、ゴリラハンターはまず顔を洗った。それでシャキッとすると、バラバラにウロウロして効率の悪いゴリラ達を集めた。ゴリラ達は様変わりした世界に打ちひしがれ、満足にウホウホも出来なかった。
 ゴリラハンターはかぶっているテンガロンハットを指で弾き飛ばした。
「もう戦争はこりゴリラ」
ゴリラハンターの渾身の冗談を受け、ゴリラ達は笑った。荒んだ状況を笑いが救ったのだ。ギャグとはなんと素晴らしいものだろうか。が、この、笑いっていいよね、というやり取りは、みなもと太郎の『風雲児たち』の大黒屋光太夫と仲間達の漂流エピソードのパクりだった。ちなみに、このエピソードは三谷幸喜も感銘を受けて芝居でオマージュしているそうである。
 しばらくみんなで笑うと、ゴリラハンターは、ちょっとちょっと、ちょっとみんな聞いて、のポーズをとって、急に真面目な顔になった。
「これから、人間狩りを始めます」
 さっきのは嘘で、この瞬間にゴリラハンターは誕生した。いや、ザ・ゴリラハンターの誕生である。そうそう、さっきのはゴリラハンターで、ここでザがついたの。
「さっきの爆発で、人間の時代は終わった。平成34年で終わった。今や、ゴリラのジェネレーションが一秒一秒積み重なっている」
「ウホウホー!」
 ゴリラ達はウェーブを起こし、我らが時代の到来を喜んだ。
「ウホウホー! 作戦はあるんですか」
「地下核シェルターを探し、その出入り口の上で昼寝しちゃう、名づけて……地獄のお昼寝ゴリラ作戦」
 地獄のお昼寝ゴリラ達は蜘蛛の子を散らしたように動き出した。核シェルターに潜む大物政治家や科学者、選ばれた天才達はまだそれを知らなかった。