岐阜県のお天気(たかさんの「お天気キャスター」から)

 お天気キャスターが「天気をお伝えします」と言った時、岐阜県民のみなさんは当然油断していたに違いなかったので、岐阜県のところに出されているべき晴れのち曇りや最高気温や最低気温などの表示がまったく無かったのを見てショックを受けたのなんの。そのあまり、自分の住んでいる県の名産品を言えないことに気がついた。
 テレビジョン画面では、大阪府や愛知県や滋賀県はお天気マークで半分ほど隠されているのに、岐阜県は丸見え、まるで、岐阜県全体が日本から無くなったように見える。東京都民はそれを、別にいいか、と思った。
「おいおいおいおい、岐阜県がないよ!」
 岐阜県の子どもは元気いっぱい、魚肉ソーセージをぶるんぶるん振り回して抗議した。
 お天気キャスターは、淡々と大阪、名古屋など、近畿と東海と北陸の天気をまとめて報じている。しかし岐阜県のところには何も出ていないし、言及もしない。ぽっかり空いたそこに自分はまさに住んでいるんだ、住民票があるんだ、と思うと、子どもはだんだん悲しくなってきた。
「岐阜県民が雨に打たれようと知ったこっちゃねえってかフジテレビさんは!」
 子どもはあんまり悔しいので魚肉ソーセージを頬張りながら涙を流した。もちろん魚肉ソーセージは岐阜県の名産では無い。
「岐阜県民だって生きてるんだぞ!」子どもは四つん這いになって叫んだ。「ぼくたちは岐阜エフエムだけ聞きながら死んでいくんだ!」
「あきらめるな」
 子どもは画面を見上げた。画面上の予報を伝え終えたキャスターがこっちを見ている。
「あきらめちゃいけない」
 お天気キャスターはもう一度、カメラ目線で言った。お天気キャスターと塾講師とやしきたかじんだけが持つことを許される「指さし棒」が真っ直ぐカメラに向けられ、というより岐阜県の子ども達に向けられ、絵では遠近感を出すのが難しそうに見える。
「関が原の風が生んだ子ども達よ、泣くな。心に雨を降らせる暇があるならするべきことがある。そうだ、予報が出てないなら、推測しろ」
 お天気キャスターは力強く言った。子どもはキャスターとアイコンタクトをかわすように画面をジッと見つめ、思わず魚肉ソーセージを握りつぶしてしまっていた。
「岐阜県民よ、推測しろ。では関東地方のお天気」
 天気は西から東へ移るように変わっていく。それは雲の流れがそうだからだ。浅い知識で子ども達は、大阪が雨だから岐阜も降る、と思った。東京は晴れで紫外線も凄く強い。日傘を持って出かけたほうがよさそうだ。