「ぼくがことばを使うときは、だよ」ハンプティ・ダンプティはいかにも人を馬鹿にした口調で、「そのことばはぴったりぼくのいいたかったことを意味することになるんだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ただ問題は、そんなふうにことばにやたらいろんな意味をもたせていいものかどうか」
「問題はだね。どっちが主導権をにぎるかってこと――それだけさ」

――(ルイス・キャロル鏡の国のアリス矢川澄子訳 新潮文庫 P112)

俺たちはさんざん待った。俺たちみんな。待つことが人を狂わせる大きな原因だってことくらい、医者は知らんのか? 人はみな一生を待って過ごす。生きるために待ち、死ぬために待つ。トイレットペーパーを買うために並んで待つ。金をもらうために並んで待つ。金がなけりゃ、並ぶ列はもっと長くなる。眠るために待ち、目ざめるために待つ、結婚するために待ち、離婚するために待つ。雨が降るのを待ち雨が止むのを待つ。食べるために待ち、それからまた、食べるために待つ。頭のおかしい奴らと一緒に精神科の待合室で待ち、自分もやっぱりおかしいんだろうかと思案する。
――(チャールズ・ブコウスキー『パルプ』柴田元幸訳 P135)