男ならやってやれ

 旅するVC3000のど飴、ビタミンC之助が町を通りかかると、一つの看板が目についた。
『ボク対トラ 7/2 15:00〜』
 C之助は自慢の腕時計をキラリと光らせ、ちょうど3時のあたりについている小さな小窓に書いてある数字を確認した。そこには、2と書いてあった。
「しかし、油断は出来ない。月のかわりめは31日まであるか30日までかで変わってしまって表示が一日ずれているなんてことがよくある。特に安い時計の場合はよくある。二月と三月のかわりめなんか大変だ。安い時計はだからいけない。そして私の時計は」
 C之助はキョロキョロと周りを見回し、目を見開いた。
「安かろう悪かろうだ」C之助は余裕の表情をみせる。「ということは、今日は二日で間違いなかろう。なになに、ボク対トラとな」
 C之助はしげしげとその看板を見つめた。文字だけの簡単な看板だ。
 C之助は考えた。果たしてボクがトラに勝てるのか。これがオレなら、まあ勝つかな、と思う。ワイなら、間違いなく勝つだろう。ワタクシならワタクシで、なんとなく勝ちそうだ。オイドンなら、いい勝負になると思う。
「しかし、いくらなんでもボクでは」
「この勝負わからぬ」
 そう言ったのは、横で見ていた老人だった。穏やかだが、ただならぬ雰囲気を持っていた。
「ボクとて男よ」
「なるほど、さすが老師」
 C之助は素直に感心した。確かに、ボクというなら男だ。男なら、いけるかも知れない。男なら、やれるかも知れない。トラに勝利することが出来るかも知れない。いや、出来るかも知れないじゃない、それじゃダメだ。弱気になっちゃいけない。気持ちを強く持て。ボクには出来るんだ、やるんだ。男なら、何度でも何度でも立ち上がり、歯を食いしばって、意地でもやってやれ。男ならガツンとやってやれよ。そうだ、お前が男なら、本当の男なら、トラに勝ってみせろ! 
 老師はにっこり微笑んで、C之助を口に放り込んだ。