マッチョ対メカマッチョ

 メカマッチョが東京湾に現れたその日、マッチョはバリ島でつかの間のバカンスを楽しんでいた。
「博士、テレビで見ました。大丈夫ですか」
「マッチョくん、東京はほぼ壊滅状態。もはや動いている線路は埼京線だけだ」
「なんですって。すぐ向かいます」
「急いでくれ。しかし、奴は君の能力を完全コピーしている。コーンフレークは牛乳にひたしてほしくない、というところまでコピーしているんだ」
「そんなところまで」
「いくら君でも勝てるかどうか……」
「博士、ぼくは自分に打ち勝ってここまできたんですよ」
「マッチョくん」
「ぼくが勝ちたいのは、いつもぼく自身なんです。ぼくは自分の筋繊維を壊して成長してきました。昨日のぼくを痛めつけて痛めつけてきたのが今日のぼくなんです。今日のぼくはプロテインを、昨日のぼくより一杯多く飲んでいるんです。それを思えば、メカマッチョぐらいなんですか」
「マッチョくん、今、奴が、メカマッチョがテレビに映った。叫んでいるんだ。ちょっと聞いてくれ」
 マッチョは受話器を耳に押し当てた。
「バリ島行くんですよ! 六泊七日ですよ!」
 マッチョの顔がこわばる。
「マッチョくん、奴は、バリ島へ行く前日の君をコピーしているんだ。『飛行機久っしぶりだなぁ!』とか言ってるんだ」
「まるっきり、あの日のぼくじゃないですか」
「そうだ。一週間遊びほうけていた君に、あの日の君が倒せるのか」
 マッチョが持っていたソフトクリームは溶け、腕を伝って肘までたれていた。したたる汗とクリームが、腰につけたシャチの形をした浮き輪にボタボタボタボタ、落ちていた。