カスえもんごむ太のなんかこわいよ最終回

「じゃあ、じゃあカスえもんはもう動けないってことかよ」
「そうなんだ。カスえもんに搭載されているバッテリーの製造が終わってたんだ。そして、バッテリーはもうきれかかってる。声もかすれてきてる」
 ごむごむ太の声は沈んでいたが、それは無理も無いことだった。何年も一緒に過ごし、時に笑い、時に叱り、ごむ太を支えてくれたのはカスえもんだったし、そしてなにより、大事な友達なのだ。
「うっ、うっ」
 ごむ太はカスえもんとの日々を思い出し、たまらず泣いた。いつもと違い、仲間もごむ太の涙を笑ったりはしなかった。
「私たちに出来ることはないのかしら。ねえ、ないのかしら、ねえねえ、ねえったら。おい聞いてんのかよ」
 うるさちゃんがいつものようにうるさく言った。
「うるせーアマ!ちっとは黙ってろ!」
 こんな日は、将来の嫁に対しても強くあたってしまうごむ太なのだった。
「え、へへ、でもとにかく、今日は晴れてて絶好の遊戯王日和でやすねぇ。あ、おろろ、猫でやすよ! 猫発見でやすよ!」
 馬鹿杉はそう言うと、茂みから顔を出した猫を追い掛けて行ってもう戻ってこなかった。
 筋骨スゲ夫はそれを見て何か言おうとしたが、泣きむせぶごむ太を気にして黙った。しかし直後、これもたまらなくなり、
「俺たちは無力だ!」
 と絶叫して土管を突き、ぶち割った。
 丁度その時、土管に腰掛けていたコシアンはその衝撃でふっとんだ。悪いことに朝まで雨が降っていたという設定に今したので、背中は泥塗れになった。けれど、文句は言わなかった。大の字に寝転がったまま、代わりにこう言った。
「じゃあ、カスえもんの大好きなカステラをいっぱい買って、プレゼントしてやろう。ついでに俺は自分用にまんじゅう的な何かを買うけど、それはそれで自分の金だから気にしないでくれ」
「それ、名案ね。バッテリーが切れる前に、カスちゃんにお腹いっぱいカステラを食べてもらう。きっとカスちゃんも喜ぶんじゃないかしら。ね、そうよね。じゃあ、賛成の人、今の意見に賛成の人ー! 手をあげて賛成の人はー! はーいはーい!」
 うるさちゃんがうるさく賛成すると、ごむ太もスゲ夫も手をあげた。スゲ夫は肩の周りの筋肉が死ぬほど発達しているので、手が真上にあげられなかった。
 20分後、空き地にはカステラを大量に持った小学生がたむろした。コシアンは大福を食っていた。ごむ太は、カスえもんを呼びにいき、二人してタケコプターでやってきた。
 二人が着陸すると、カステラパーティーが始まった。何も知らないカスえもんは喜んだ。
「最近、調子まじ最悪なんだけど、カステラ見たら元気出てきたよ」
 それを聞いた皆は、笑顔を見せた。奥に潜む悲しみを誰もが隠していた。うるさちゃんはうるささで隠した。スゲ夫は筋肉で隠した。コシアンは大福を限界まで頬張ることで隠した。ごむ太はメガネについたサングラスのレンズを下ろして隠した。二重構造なのである。
「がんがん食べたらいいわ。ね、カスちゃん。ほら、食いまくれ。もりもり。なんなら下の紙とかも食べたら、ねえ。今の面白くない? どう? どうなの?」
「うるせえよ。下の紙は食わねえよ」
 カスえもんは、そう言いながらも微笑んで、カステラの下の紙を取った。その時だった。
 ウゥゥゥン。
 パソコンの電源が切れるような音とともに、カステラがカスえもんの手から落ちた。
「カ、カスえもん?」
 スゲ夫が筋肉の力を総動員して揺り動かしても、反応がない。白目になっている。
「うわあああ!」
 ごむ太は絶叫した。それをうるさちゃんが制した。
「落ち着きましょう。一回落ち着こう。な、おい、なあって、おい、落ち着けえええ!」
 パン! ごむ太を平手打ちしてから、続ける。
「もう一回、電源を入れなおしてみよう。ゲームボーイの要領でやってみよう」
 そうだ、ゲームボーイの要領で。ごむ太は、カスえもんの尻尾をいじくった。
「あれ。俺、何してたんだ」
 カスえもんが蘇生した。
「カスえもん!」
 ウゥゥゥン。
 駄目だった。ごむ太はまた泣いて、コシアンは口に含んだ大福をとりあえず出した。スゲ夫は「ちくしょおおお!」と砕けた土管を二丁目の方に放り投げた。うるさちゃんが、皆を諭した。
「もう最終手段しかないわこりゃまじで。電源を入れなおした瞬間、カステラを詰め込みましょう。もう、無理から食べさせて、カスちゃんに最後に甘さを、大好きなカステラを知覚させてやりましょ、私達に出来るのはそれくらい。それだけ。違う?」
 ごむ太は頷き、皆はカステラを手に持って準備をした。スゲ夫は力むあまり、一本ダメにした。
「いくよ」
 電源を入れるのは、ごむ太の役目だった。入れた。
「あれ、俺、うぐ、む」
 スゲ夫は、肘まで腕を入れて、カステラを詰め込んだ。ごめんよ、こうするしかないんだ。コシアンも、スゲ夫の腕の隙間からカステラを詰めた。うるさちゃんは、カスえもんの頭を抑えつけた。ごむ太はそれを見ていた。泣きながら叫んだ。
「いっぱい食べろよ、いっぱい食べろよカスえもおおおん!」
 もうカスえもんの電源は切れていたかも知れなかったが、皆夢中で詰め込んだ。
 もっと、もっと、と皆が色気を出して力を増したその瞬間、うるさちゃんの腕が、タケコプターのスイッチに触れた。ビュウウウ。
 カスえもんの体は一瞬にして上昇して、詰めこめられたカステラを町内にまきちらしながら、凄いスピードで空を切り裂いていった。
 皆、それを見上げた。カスえもんの体の塗装の青は、雨上がりの空に溶けてとても綺麗だった。