オシャレ・ザ・沖本

 沖本のオシャレセンスは、パリでも、いやパリだからこそ通用するに違いない。だから俺たちは大学を休んで、成田空港まで見送りに駆けつけた。
「頑張れよ、沖本。お前のオシャレ、パリっ子どもに見せつけてやんな!」
「そうよ、沖本君。わざと左右違う靴をはくあのセンスで、パリの常識を変えるのよ」
「パリが揺れるぜ、沖本。だってその技を使えば、普通の靴二足、互い違い二足で、なんと二足で四足分のパフォーマンスなんだからな」
「お金は無駄遣いせず、次から次へと溢れてくるセンスを湯水のごとく使う、これがお前のストロングポイントだもんな」
「ろくに使わないのに小さなオシャレ筆箱をバッグに入れておいて、パリ中を闊歩する気なんでしょ」
「そいつはオシャレだなあ沖本!」
「読めない英字新聞も、もちろんカバンから覗かせようって魂胆だろ!」
「そしてパリジェンヌに話しかけられてもあんまり喋らない。過ぎる、オシャレが過ぎるぜ沖本!」
「お前の傘の先端はめちゃくちゃ鋭いもんな!」
「ここ日本じゃ、店に置いてある傘包みビニール袋を何百袋も貫いてきたけど、パリなら平気さ。傘にかぶすビニール袋なんてクソだせえもんは、パリじゃ配らねえよ」
「もちろんあれだろ、カフェに入り浸る予定なんだよな」
「そこで、出しもしない手紙を書くんでしょ」
「もちろんあの筆箱に入った、ボールペンを使ってな!」
「細いんだろ、そのボールペンはかなり細めなんだろ」
 沖本は柔らかな微笑みで俺たちの話を聞いていた。
「もちろんさ」
 アナウンスが入り、時間となった。沖本の真っ赤なキャリーケースの車輪が、ゆっくりと、オシャレに回転を始めた。